第2帖 帚木 / 第25場面
明け方の別れ
あらすじ・人物・読み方
人々が起き始め、源氏は帰る準備を促されます。再会や便りの頼りもなく別れることを嘆きますが、女は自分の境遇を思い、気を許すことができません。
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現代語で読む
鶏も鳴いた。人々が、起き出して、「ずいぶん、ぐっすり眠ってしまった夜だね。お車を、引き出しなさい」などと言うのが聞こえる。紀伊守も、出て来て、「女の方などの、方違えならともかく、夜深くに、お急ぎになるものでしょうか」などと言う。
源氏の君は、またこんな機会があることも、たいそう難しい。わざわざ、どうやって、お手紙などを交わすことが、あまりに難しい、とお思いになると、たいそう胸が痛い。奥の中将も、出て来て、ひどく困っているので、女を、お放しになっても、また、お引き留めになりながら、
「どうやって、お便りをすればよいのですか。世に例のない、あなたのお心の、つれなさも、いとおしさも、深い、この恋の思い出は、変わった例になりそうですね」と言って、涙をお流しになるご様子は、たいそう優美である。
「鶏もしきりに鳴いている」、と、気持ちも、せわしなくなって、
あなたのつれなさを、まだ恨み終えもしない明け方なのに、どうして、待つ間もなく、鶏が帰りをせき立てるように鳴くのでしょう。
女は、自分の境遇を思うと、まったく似つかわしくなく、気恥ずかしい感じがして、すばらしい、お振る舞いも、何とも思われない。普段は、ずいぶん、そっけなく、気に入らないと、見下げている、伊予の夫の方ばかりが、思いやられ、夢にでも、見られているのでは、と、何となく恐ろしく、気が引ける。
身のつらさを嘆き尽くせぬまま明ける夜には、重ね重ね、声を上げて泣いてしまう。
と言って、夜明けになると、源氏は、障子口まで、お送りになる。内も外も、人の気配が、騒がしいので、障子を閉めて、お別れになる時、心細く、二人を隔てる、関所のように見えた。
直衣などを着て、南の欄干に寄り、しばらく、物思いに沈んでいらっしゃる。西側の格子を、少し開けて、人々が、のぞいているらしい。簀子の真ん中辺りに立ててある、小障子の紙を透かして、ほのかに見えていらっしゃる、お姿を、身にしみるほど、すばらしく思う、物好きな女たちもいるようだ。
月は、有明の月となり、光が弱まっているけれど、姿は、はっきりと見え、かえって風情のある、曙である。何の思いもない、空の様子も、ただ見る人によって、優美にも、もの寂しくも、見えるのであった。
人には知られない、お心の中では、たいそう胸が痛く、言づてを送る、手がかりさえないのに、と、何度も振り返りながら、お出になった。
底本:北村季吟『湖月抄』延宝元年刊・国立国会図書館所蔵 本別3-1 [2]。本文画像:所蔵機関の公開資料。延宝元年(1673)刊『湖月抄』の大字本文を原画像とOCRで照合した独自編集本文です。通行字体・現行仮名へ写し、濁点・句読点を補い、反復符を展開しています。発音の読みと独自訳を添え、補った主語などは〔 〕で示します。