第2帖 帚木 / 第29場面
再び中川の家へ
あらすじ・人物・読み方
源氏は方角の禁忌を機会に、再び中川の家へ向かいます。小君を通じて知らせを受けた女は、再び逢うことをためらい、女房の部屋へ身を移します。
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現代語で読む
いつものように、宮中に、幾日か、お過ごしになるころ、都合のよい方角の、禁忌になる日を、お待ちになって、急に、退出なさるふりをして、道の途中から、中川の家へ、いらっしゃった。紀伊守は、驚いて、「庭の流れにある、よい木のおかげだ」と、恐縮して、喜ぶ。
小君には、昼間から、「こう、思いついたのだ」と、おっしゃって、約束してある。明け暮れ、おそばに置いて、慣れさせていらっしゃるので、今夜も、まず、お呼び出しになった。
女も、そのような、お知らせを受けていたので、お考えになって、用意なさった思いは、浅いとも、思い切れないが、そうかといって、気を許して、見栄えのしない姿を、お目にかけても、むなしく、夢のように過ぎてしまった、あの嘆きを、また、加えるのだろうか、と、思い乱れて、やはり、そのまま、お待ち申し上げることが、気恥ずかしいので、
小君が、出て行く間に、「とても近いので、気が引けます。気分が悪いので、ひそかに〔体を〕たたかせたりもするでしょうから、少し、離れた所へ、いましょう」と言って、渡殿に、あの、中将といった女房が、部屋を取っている、人目につかない所へ、移った。
そのつもりで、人々を、早く静まらせて、お言づてがあるが、小君は、姉を、見つけられない。あちこちを、捜し回って、渡殿に、分け入って、疲れ果てて、ようやく、たどり着いた。
小君は、たいそうあきれ、ひどいと思って、「どんなに、役に立たないと、お思いになるでしょう」と、泣きそうになって言うので、「こんな、けしからぬ心を、使うものですか。幼い子が、こんなことを、取り次ぐのは、たいそう、忌み嫌われるものなのに」と、言い負かして、
「具合が悪いので、人々を遠ざけ、体を押さえさせております、と、申し上げてください。変だ、と、誰もが思うでしょう」と、きっぱり言う。
心の中では、このように、身分も決まってしまった、今の境遇でなく、亡くなった親の、面影の残る、昔の家のままで、たまたまでも、お待ち申し上げられたら、どんなに、すてきなことだったろう。
無理に、何も分からない顔をして、無視するのも、どれほど、身のほど知らずのように、お思いになるだろう、と、自分の気持ちながら、胸が痛く、やはり、思いは乱れる。どうであれ、今では、どうしようもなくなった、宿命なのだから、無愛想で、気に入らない女のまま、終わってしまおう、と、決心している。
底本:北村季吟『湖月抄』延宝元年刊・国立国会図書館所蔵 本別3-1 [2]。本文画像:所蔵機関の公開資料。延宝元年(1673)刊『湖月抄』の大字本文を原画像とOCRで照合した独自編集本文です。通行字体・現行仮名へ写し、濁点・句読点を補い、反復符を展開しています。発音の読みと独自訳を添え、補った主語などは〔 〕で示します。