ATAWI 古典文学JAPANESE CLASSICS, AT YOUR PACE

第3帖 空蝉 / 第4場面

違う人の夜

あらすじ・人物・読み方

空蝉は逃れ、源氏は残って寝ていた軒端荻を空蝉と思って近づきます。人違いを知っても身元を明かせず、心には逃れた人への思いが強まります。

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現代語で読む

源氏は中へお入りになり、ただ一人寝ているのを見て、都合がよいと思われる。床の下の方には、二人ほど寝ている。掛けている衣を押しのけてお寄りになると、以前の感じよりも、大柄に感じられるけれど、まさか人違いだとは思いもなさらない。ぐっすり寝入っている様子などが、不思議と違っていて、だんだん別人だとお分かりになり、驚き、しゃくに障るけれど、人違いだと慌てて見せるのも、愚かで不審に思われるだろう。

目当ての人を探して近づこうとしても、これほど逃れようとする気持ちがあるようだから、むだで、ばかにされるだろう、とお思いになる。あの、明かりの下で魅力的だった人なのだから、仕方がない、とお考えになるのも、よくないお心の浅さであるらしい。

〔軒端荻は〕だんだん目を覚まし、まったく思いがけないことに驚いて、呆然とした様子で、深く思いをめぐらせ、気がねするような用心もない。男女の仲をまだ知らない年頃のわりには、物慣れたところがあって、弱々しく取り乱したりはしない。〔源氏は〕自分だとは知らせまいとお思いになるが、どうしてこんなことになったのかと、後で〔相手が〕考えを巡らせるとしても、自分にとっては大した問題でなくても、あの薄情な人が、ひたすら世間を気にして隠しているのも、やはりかわいそうなので、度々の方違えにかこつけて訪ねた事情を、とてもうまく言いつくろわれる。

事情を考える人なら理解してしまうだろうが、まだとても若い心には、いくらませているようでも、十分には分からない。〔源氏は〕嫌いではないものの、心がとどまるほどの趣もない気がして、やはり、あの腹立たしい人の心を、ひどく思いつめていらっしゃる。どこに這い隠れて、私をばかだと思っているのだろう、これほど頑固な人は、めったにいないのに、とお思いになるにつけても、あいにく、忘れられず思い出されなさる。この人の無邪気で若々しい様子もかわいらしいので、それでも情愛こまやかに、後のことを約束しておかれる。

「人に知られている仲よりも、このような仲は情趣が増すものだと、昔の人も言ったのだ。〔あなたも〕私を思ってください。隠さなければならないことが、ないわけではないから、自分自身のことながら、思いどおりにはできそうもないのだ。また、関わりのある人々もお許しにはならないだろうと、前もって胸が痛い。忘れずに待っていてください」などと、親しみやすくお話しになる。「人にどう思われるか恥ずかしいので、〔あなたに〕お便りを申し上げることはできそうもありません」と、〔軒端荻は〕裏表なく言う。「誰にでも知らせるのなら、そうだろうが。この小さな殿上人などに託して、お便りしよう。何もない様子でふるまってください」などと言い残して、あの〔空蝉が〕脱ぎ落とした薄い衣を取って、お出になった。

底本:北村季吟『湖月抄』延宝元年[1673]刊・国立国会図書館所蔵 本別3-1 第3冊。本文画像:所蔵機関の公開資料。延宝元年(1673)刊『湖月抄』の大字本文を原画像とOCRで照合した独自編集本文です。通行字体・現行仮名へ写し、濁点・句読点を補い、反復符を展開しています。発音の読みと独自訳を添え、補った主語などは〔 〕で示します。