ATAWI 古典文学JAPANESE CLASSICS, AT YOUR PACE

第3帖 空蝉 / 第6場面

残された衣と言葉

あらすじ・人物・読み方

源氏の手習いの歌を小君が持ち帰ります。空蝉は残された衣と自分の境遇を思い、誰にも知られない言葉を書きつけます。

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小君をおそばに寝かせて、あれこれと恨み言を言い、また一方では親しく話しかけられる。「お前はかわいいけれど、薄情な人の縁者なのだから、ずっとかわいがってはやれそうもないよ」と真剣におっしゃるので、〔小君は〕ひどく困ったと思っている。〔源氏は〕しばらくお休みになるが、お眠りになれない。硯を急いで取り寄せられ、わざわざ相手に送るお手紙ではなく、ただ手習いのように、思いつくままお書きになる。

蝉が抜け殻を残して姿を変えた木のもとで、それでもその人そのものが、慕わしく思われることだ。

とお書きになったものを、〔小君は〕懐に入れて持っていた。もう一人の女性も、どう思っているだろうと、かわいそうではあるけれど、〔源氏は〕あれこれ思い直されて、お言伝てもない。あの薄衣は、小袿にとても慕わしいその人の香りがしみているのを、身近にいつも置いて、眺めていらっしゃる。

小君があちらへ行くと、姉君は待ちかまえて、ひどくおっしゃる。「あまりにもひどいことだったので、あれこれごまかしてみても、人が何と思うか、言い逃れようもなくて、本当につらい。〔お前の〕こんなに考えの幼い心遣いを、一方ではあの方も、どうお思いになるでしょう」と言って、お叱りになる。〔小君は〕どちらからも責められて苦しく思うが、あの手習いを取り出した。〔空蝉は〕それでも、手に取ってご覧になる。あの脱ぎ残した衣を、どんなふうに、伊勢の海人の衣のように潮がしみてよれたものとでも、などと思うにつけても平気ではいられず、ひどくさまざまな思いに乱れる。

西の姫君も、何となく恥ずかしい気がして、ご自分のお部屋に帰ってしまわれた。ほかに知る人もない出来事なので、ひそかに物思いに沈んで座っている。小君が行き来するにつけても、胸ばかりいっぱいになるが、お便りもない。驚きあきれるような事情だったと気づくすべもなく、〔恋を知ったような〕気分で、しみじみ物思いをするのだろう。

冷淡にふるまう空蝉も、そうして気持ちを抑えてはいるけれど、軽いものでもない〔源氏の〕お気持ちを、昔のままの自分の身であったなら、と、取り戻せるわけでもないのに思い、こらえきれないので、この畳紙の片方に、

蝉の羽に置く露のように、木の陰に身を隠して、人に知られないよう、こらえにこらえて涙にぬれる袖であることだ。

底本:北村季吟『湖月抄』延宝元年[1673]刊・国立国会図書館所蔵 本別3-1 第3冊。本文画像:所蔵機関の公開資料。延宝元年(1673)刊『湖月抄』の大字本文を原画像とOCRで照合した独自編集本文です。通行字体・現行仮名へ写し、濁点・句読点を補い、反復符を展開しています。発音の読みと独自訳を添え、補った主語などは〔 〕で示します。