第4帖 夕顔 / 第2場面
空蝉への執心
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現代語で読む
さて、あの空蝉が驚くほど冷淡なのを、〔君〕はこの世の人とは違うようにお思いになるにつけ、素直であったなら、気の毒な過ちとして終わってしまったはずなのに、〔君には〕ひどく悔しく、このまま負けて終わってしまうことが、気にかからない時はない。
こうした程度の身分までは、〔君〕はお考えになったことがなかったのに、先日の雨夜の品定めのあと、知りたいとお思いになる階層があって、いっそう隅々にまで及ぶようになったお心なのだろう。
ひたすらお待ち申し上げる顔をしている、あちらこちらの人たちを、いとおしくお思いにならないわけでもないが、そ知らぬ顔で聞いているだろうと思うと、気恥ずかしいので、まずはこちらの試みを終えてからとお思いになっているうちに、伊予介が上京した。さっそく急いで参上した。
船旅のせいで、少し日に焼けてやつれた旅姿は、とても不格好で、好感が持てない。けれど、身分も卑しくない家柄で、顔立ちなどは年を取っていてもきれいな感じがして、ただの人とも見えず、様子にも風情があるのだった。
〔伊予介が〕任国の話などを申し上げるのを、〔君〕は「湯桁〔湯船の縁の横木〕は幾つ」と尋ねたくお思いになるが、むやみにきまり悪くて、
お心の中に思い浮かべられることも、さまざまだった。物事をきちんとした年長の人を、こんなふうに思うのも、なるほど愚かで、気のとがめることだな。
なるほど、これこそ並々ならない欠点らしいと、〔君〕は馬頭の忠告を思い出して、気の毒なので、冷淡な心はしゃくにさわるけれど、相手の身を思えばいじらしいと、お考え直しになる。
娘は相応の人に預け、妻は連れて下るはずだと〔君が〕お聞きになるにつけ、いろいろな意味で心が落ち着かず、もう一度会うことはできないのだろうかと、〔君〕は小君に相談なさるが、
〔空蝉〕は、互いに気持ちを合わせているとしてさえ、〔君が〕簡単に人目を忍んでいらっしゃれるはずもないのに、まして〔自分には〕似つかわしくないことだと考えて、今さらでは見苦しいはずだと、思いを断っていた。
それでも、すっかりお忘れになるとしたら、何ともむなしくつらいはずだと思って、〔空蝉〕は、折々のお返事などを親しみ深く申し上げながら、さりげない筆の運びに添えた言葉にも、不思議とかわいらしく、目を引くようなところを加えるなどして、〔君が〕心を動かされるに違いない人柄なので、〔君〕は、冷淡でしゃくなものの、忘れられないとお思いになる。
もう一方は、夫の威勢が強くなっても変わらず心を許してくれそうに見えた様子を頼りにして、〔君〕はあれこれお聞きになるが、お心も動かないのだった。
底本:北村季吟編『湖月抄』延宝1 [1673] 跋・国立国会図書館蔵 本別3-1。本文画像:所蔵機関の公開資料。延宝元年(1673)刊『湖月抄』の大字本文を原画像とOCRで照合した独自編集本文です。通行字体・現行仮名へ写し、濁点・句読点を補い、反復符を展開しています。発音の読みと独自訳を添え、補った主語などは〔 〕で示します。