第4帖 夕顔 / 第6場面
荒れた院へ
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現代語で読む
〔君が〕管理を預かる人をお呼び出しになる間、
荒れた門にしのぶ草が茂っていて、見上げられるのは、この上なく、何となく暗い。霧も深く、露っぽいところに、〔君は車の〕簾まで上げていらっしゃるので、お袖もひどく濡れてしまった。
「まだこのようなことには慣れていなかったが、気をもむことでもあるのだなあ。
昔も、人はこのように迷ったのだろうか。私がまだ知らなかった、明け方の道だ。
あなたは慣れていらっしゃるのですか」と〔君は〕おっしゃる。女は恥ずかしがって、
山の端の心も知らずに行く月は、空の途中で光が絶えてしまうのだろうか。
「心細くて」と言って、〔女が〕何となく恐ろしく、ぞっとするように思っているので、あの、人が寄り集まっていた住まいでの習慣なのだろう、と〔君は〕おかしくお思いになる。
お車を引き入れさせて、西の台にお座りになる場所などを整える間、高欄にお車を寄せて止めていらっしゃる。右近は風流な気分になって、過ぎてきた昔のことなども、人知れず思い出した。
管理を預かる人が、たいそう忙しく世話をして回る様子に、このお方のご身分が、すっかりわかった。
ほのかに物が見えるころに、〔君たちは車から〕お降りになったらしい。ほんの一時のことながら、きれいに整えてある。
お供には人もお仕えしていなかった。困ったことだなあ、と言って、〔管理人は君と〕親しい下家司で、お邸にもお仕えする者だったので、そばに参って、ふさわしい人をお呼びになるべきでしょうか、などと申し上げさせるが、
「わざわざ、人が来そうにない隠れ家を求めたのだ。決して思わぬところへ漏らすな」と、〔君は〕堅く口止めをさせなさる。
お粥などは、急いでお出ししたけれど、取り次いでの給仕は、手際が合わない。
これまで知らない、特別な旅寝で、起きても寝ても、〔女と〕縁を約束なさるほかのことはない。
日が高くなるころにお起きになって、格子をご自分の手で上げなさる。
〔院は〕ひどく荒れ、人影もなく、はるかに見渡されて、木立はたいそう不気味で、古びている。近くの草木などには、これという見どころもなく、すっかり秋の野のようで、池も水草に埋まっているので、ひどく不気味になってしまった所だ。
別の方には、部屋などを設けて、人が住んでいるようだけれど、こちらは離れている。
「不気味にもなってしまった所だなあ。それでも鬼なども、私のことは見逃すだろう」と〔君は〕おっしゃる。
顔はまだ隠していらっしゃるが、女がたいそう冷たいと感じるだろうから、実際、これほどになって隔てがあるのも、事のありさまにそぐわない、と〔君は〕お考えになって、
夕露に紐を解く花との縁は、道すがら見かけたのが、もとだったのだなあ。
「露の光はどうですか」と〔君が〕おっしゃると、〔女は〕横目がちにこちらを見やって、
光があると思って見た夕顔の上の露は、たそがれ時の見誤りだったのですね。
〔女が〕ほのかに言うのを、〔君は〕趣があるとお思いになる。なるほど、気をお許しになっているご様子は、この世に例がなく、場所が場所だけに、なおさら、恐れ多いほどにお見えになる。
「いつまでも隔てていらっしゃる冷たさに、〔自分も正体を〕明かすまいと思っていたのに、せめて今は、名乗りをなさい。たいそう気味が悪い」と〔君は〕おっしゃるが、
漁師の子ですから、と言って、〔女は〕それでも気を許しきらない様子が、たいそう甘えている。「まあ、これも自分からしたことなのだろう」と、恨みを言いながらも語り合って日を暮らしなさると、
惟光は〔君を〕捜して参上し、お果物などを差し上げる。
右近が何と言うか、やはり気がひけるので、〔惟光は〕近くへ寄ってお仕えすることもできない。
〔君が〕これほど探し歩いていらっしゃるのも興味深く、それももっともな〔女の〕様子なのだろう、とおのずと推し量られるにつけても、自分こそうまく恋い寄れたはずなのを、〔君に〕お譲り申し上げて、気前のよいことよ、などと、心外に思っている。
この上なく静かな夕方の空を、〔君は〕じっとご覧になって、奥の方は暗く、何となく気味が悪い、と女は思っているので、端の方の簾を開けて、〔君は女に〕添い寝していらっしゃる。
夕日の中の姿を見交わして、女もこうした様子を、思いがけず不思議な感じがしながらも、あらゆる嘆きを忘れて、少しずつ気を許してゆく様子は、たいそうかわいらしい。
〔女が〕ぴったりとおそばに寄り添って日を暮らし、物事をひどく恐ろしいと思っている様子は、幼く、いじらしい。
〔君は〕格子を早くお下ろしになり、お灯りをおともさせになって、すっかり隔てのなくなったご様子で、それでも心の中の隔てを残していらっしゃるのがつらい、と〔女への〕恨みをおっしゃる。
宮中では、どのように捜させていらっしゃるだろう、どこを尋ねるだろう、と〔君は〕お思いやりになって、その一方では、妙な心だなあ。
六条のあたりでも、どんなに思い乱れていらっしゃるだろう。恨まれるのもつらいが、道理だ、と、〔六条の方が〕お気の毒だということを、まずお考え申し上げなさる。
何の気遣いもいらない〔女との〕差し向かいを、いとしいとお思いになるにつけ、あまりに心が老成していて、相手をする人も窮屈になるご様子を、少し取り去りたいものだ、と、おのずと比べてお考えになった。
底本:北村季吟編『湖月抄』延宝1 [1673] 跋・国立国会図書館蔵 本別3-1。本文画像:所蔵機関の公開資料。延宝元年(1673)刊『湖月抄』の大字本文を原画像とOCRで照合した独自編集本文です。通行字体・現行仮名へ写し、濁点・句読点を補い、反復符を展開しています。発音の読みと独自訳を添え、補った主語などは〔 〕で示します。