ATAWI 古典文学JAPANESE CLASSICS, AT YOUR PACE

第4帖 夕顔 / 第7場面

夜の夢と消えた灯

あらすじ・人物・読み方

眠った源氏の枕元に女が現れ、目を覚ますと灯りが消えている。

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現代語で読む

宵が過ぎるころ、〔君が〕少しお眠りになっていると、お枕元に、とても美しい女が座っていて、

「私がたいそうすばらしい方とお慕い申し上げているのに、訪ねようともお思いにならず、こんな、とりたててすぐれたところもない人を連れていらして、大事にしていらっしゃるとは、ひどく心外でつらいことです」

と言って、おそばのこの人を抱き起こそうとする、と〔君は夢に〕ご覧になる。ものに襲われる感じがして、目をお覚ましになると、灯火も消えていた。

不気味にお感じになるので、太刀を引き抜いてそばに置きなさって、右近をお起こしになる。こちらも恐ろしいと思っている様子で、そばへ参った。

「渡殿にいる宿直の人を起こして、紙燭に火をつけて持って参れ、と言いなさい」と〔君が〕おっしゃると、「どうして参れましょう、暗くて」と〔右近が〕言うので、

「ああ、幼いことだ」と〔君は〕ふとお笑いになって、手をおたたきになると、こだまの答える声が、ひどく不気味だ。

人は聞きつけることができず、参らないので、この女君は、ひどく震えて取り乱し、どうしたらよいだろうと思っている。汗もぐっしょりになって、正気も失いそうな様子だ。

「物を怖がることを、ひどくなさるご性質なので、どのようなお気持ちになられたのでしょうか」と、右近も申し上げる。たいそうか弱くて、昼も上の方ばかり見ていたのに、気の毒だ、と〔君は〕お思いになって、

「私が人を起こそう。手をたたくと、こだまが答えるのが、ひどくやかましい。ここに、しばらく近くに〔いて〕」と言って、右近を引き寄せなさって、

〔君は〕西の端の戸に出て、戸を押し開けなさると、渡殿の灯火も消えていた。

風が少し吹いているなか、人は少なく、お仕えしている者はみな眠っていた。

この院の管理人の子と、〔君が〕親しくお使いになる若い男、それに殿上童が一人、いつもの随身だけがいた。〔君が〕お呼びになると、お返事をして起きたので、

「紙燭に火をつけて持って参れ。随身も弦打ちをして、絶えず声を立てよ、と命じなさい。人里離れた所で、気を許して寝入っているものか。惟光の朝臣が来ただろうが、〔どうした〕」と、〔君が〕お尋ねになると、

「控えておりましたが、仰せもありませんでした。明け方にお迎えに参る旨を申し上げて、退出いたしました」と〔男は〕申し上げる。

このように申し上げる者は、滝口の武士だったので、弓の柄を、いかにもさまになった手つきで打ち鳴らして、「火の用心」と言う。〔男は〕管理人の部屋のそばへ行ってしまったようだ。

〔君は〕宮中へ思いをおはせになって、名対面は済んだだろう、滝口の宿直の申し立ては、ちょうど今だろう、と推し量りなさるのは、まだそれほど夜が更けていないころなのだ。

〔君が〕部屋へ戻って手探りなさると、女君はそのまま横になっていて、右近はそばにうつ伏していた。

「これはどうしたことだ。ああ、ばかげた怖がり方だ。荒れた所では、狐などの類が、人を脅かそうとして、何となく恐ろしく感じさせるのだろう。私がいるから、そういうものには脅されまい」と言って、〔右近を〕引き起こしなさる。

「ひどく気味が悪くて、気分も悪うございますので、うつ伏しているのでございます。〔女君〕こそ、たまらないお気持ちでいらっしゃいましょう」と〔右近が〕言うので、

「そうだ、どうしてこんなことに」と言って、〔君が女君を〕手探りなさると、息もせず、引き動かしなさっても、ぐったりして、正気もない様子なので、

ひどく幼い人だから、何かに魂を奪われたらしい、と、〔君は〕どうすることもできないお気持ちになられる。

〔男が〕紙燭を持って参った。右近も動けそうな様子ではないので、〔君は〕近くの御几帳を引き寄せて、「もっと近くへ持って参れ」とおっしゃる。

〔男には〕いつもとは違うことで、おそば近くへも参れない遠慮があり、長押の内へも上がれない。「もっと近くへ持って来るのだ。その場に応じて〔振る舞う〕ものだ」と〔君は〕言って、

〔男を〕呼び寄せて御覧になると、ちょうどこの枕元に、夢に現れた顔かたちの女が、幻の姿として見えて、ふっと消え失せた。

昔の物語などでは、こういうことを聞くけれど、〔君には〕ひどく珍しく、恐ろしかったが、まずこの人はどうなってしまったのか、とお思いになる心の動揺で、ご自分の身のこともおわかりにならない。

〔女君に〕寄り添って横になり、「おい、おい」と起こそうとなさるが、ただ冷たく冷え切っていて、息はとうに絶え果てていた。言いようもない。

頼りにして、どうしたものか、と相談なさることのできる人もいない。僧侶などをこそ、こういう方面で頼りになる者とお思いになればよいのだが、

それほど気丈になさっていても、お若いお気持ちでは、〔女君が〕どうにもならなくなったのを御覧になると、悲しみを晴らすすべもなく、ひしと抱きしめて、

「大切なあなた、〔戻ってきて〕ください。こんなにつらい目に遭わせないでください」とおっしゃるが、〔女君は〕すっかり冷たくなっていて、様子もいよいよ生気を失っていく。

右近は、ただ気味が悪いと思っていた気持ちも、すっかり消えて、泣き乱れる様子は、たいそう痛ましい。

〔君は〕南殿の鬼が、ある大臣を脅かしたという例を思い出しなさって、気を強く持ち、そうはいっても、このままむなしく亡くなってしまわれることはあるまい、

夜の〔右近の泣く〕声は、ひどく響く。「静かに」とお制止になるが、あまりに慌ただしい事態に、〔君も〕呆然としたお気持ちでいらっしゃる。

〔君は〕先ほどの男をお呼びになって、「ここに、ひどく妙に、何かに襲われた人が苦しそうにしているので、今すぐ、惟光の朝臣の泊まっている所へ行って、急いで参るように言え、と命じなさい。

ある阿闍梨が、そこにいらっしゃる時ならば、ここへ来るようにと、内々に言いなさい。あの尼君などが聞くような時に、大げさに言うな。このような出歩きを許さない人なのだ」などと、お話になるようではあるが、

〔君の〕胸はいっぱいにふさがり、この人をむなしく死なせてしまうことが、たいそうつらく思われるうえに、あたり一帯の恐ろしさも、たとえようがない。

もう夜半も過ぎただろう。風がやや激しく吹くと、いっそう松の響きが、木立の奥深く聞こえて、何やらいわくありげな鳥が、しわがれ声で鳴くのも、梟とはこれなのだろうかと思われる。

〔君が〕あれこれ思い巡らすと、こちらもあちらも人けが遠く、不気味で、人声もしない。どうしてこんな頼りない宿を取ったのかと、悔やんでも、その気持ちを晴らすすべがない。

右近は何もわからず、君にぴったりと寄り添い申し上げて、震え死にしそうだ。こちらまでどうなるだろう、と〔君は〕気が気でなく、〔右近を〕抱き止めていらっしゃる。ご自分一人がしっかりしなければならず、思いを向けて頼る先もないのだ。

灯火はかすかにまたたき、母屋の端に立ててある屏風の上の方などが、あちこち、暗く陰気に〔君には〕感じられるうえに、何かの足音が、ひしひしと踏み鳴らしながら、後ろから近寄って来る気がする。

惟光よ、早く参ってほしい、と〔君は〕お思いになる。〔惟光は〕居場所の定まらない者なので、〔使いが〕あちこち尋ねている間、夜が明けるまでの長さは、千の夜を過ごすようなお気持ちでいらっしゃる。

ようやく鶏の声がはるかに聞こえると、〔君は〕命をつなぐ思いで、どのような因縁で、こんな目に遭うのだろう。

自分の心ながら、こうした恋の道で、身のほど知らずな、あってはならぬ思いを持った報いで、こうして、昔も今後も人に語られる例になってしまうようなことが起こるのだろう。

隠そうとしても、世の中のことは隠しきれず、〔帝が〕お聞きになることをはじめ、人が思ったり言ったりすることや、たちの悪い子供たちの口の端にのぼることにもなりそうだ。

生きていても、愚かしい評判を得ることになるのだな、と〔君は〕思い巡らしなさる。

底本:北村季吟編『湖月抄』延宝1 [1673] 跋・国立国会図書館蔵 本別3-1。本文画像:所蔵機関の公開資料。延宝元年(1673)刊『湖月抄』の大字本文を原画像とOCRで照合した独自編集本文です。通行字体・現行仮名へ写し、濁点・句読点を補い、反復符を展開しています。発音の読みと独自訳を添え、補った主語などは〔 〕で示します。