第5帖 若紫 / 第12場面
夜明け前の訪問
あらすじ・人物・読み方
源氏は、少女を迎えるため、夜明け前に乳母のもとを訪れます。
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門をお叩かせになると事情も知らない者が開けたので、お車をそっと中へお引き入れになって、大夫が妻戸を鳴らして、咳払いをすると、少納言は聞き分けて、出てきた。「こちらにいらっしゃいます」と言うので、「幼い方はお休みになっております。どうして、こんなに夜の深いうちにお出かけになったのですか」と、何かのついでと思って、言う。「宮の所へお移りになるそうなので、その前に一言お話し申し上げておこうと思いまして」と、おっしゃると、「何のお話がございましょう。どうして、しっかりしたお返事を申し上げなされましょう」と、言って、笑いながら、座っている。源氏がお入りになると、「たいそうお恥ずかしく、気を許しておりまして、見苦しい年寄りたちがおりますのに」と申し上げる。「まだお目覚めではないでしょうね。さあ、お目をお覚まし申し上げよう。
朝霧も知らずに寝ているものですか」と言って、お入りになるので、「いけません」とも、申し上げられない。少女は何の心配もなく、お眠りになっていたのを、抱いて、お起こしになると目を覚まして、宮がお迎えにいらしたと寝ぼけて、お思いである。〔少女は〕お髪を整えたりなさっていて、「さあ、おいでなさい。宮のお使いとして、参ったのですよ」と、おっしゃるので、〔少女は〕そうではなかったと途方に暮れ、怖いと思っているので、「まあ、つれないこと。私も同じ人なのですよ」と言って、抱きかかえて、お出になるので、大夫や少納言などが「これはどうしたことですか」と申し上げる。
〔源氏は〕「こちらへはいつもは参れないのが心配なので、安心な所へと申し上げたのですが、残念なことにほかへお移りになるそうなので、いよいよお話し申し上げることも、難しくなるでしょうから、どなたか一人おいでなさい」と、おっしゃるので、「気ぜわしい今日にはたいそう都合が悪うございましょう。宮がおいでになった時にはどのように申し上げましょう。自然と時がたって、しかるべきお年頃になりましたなら、どのようにでもなりましょうけれど、まだたいそう分別のない年頃のことですので、お仕えする人々は困ったことになりましょう」と、申し上げると、「よろしい。後からでも人は参るでしょう」と言って、お車をお寄せになるので、〔女房たちは〕驚きどうしたものかと思い合っている。少女も不審にお思いになって、お泣きになる。少納言は、
お引き止め申し上げるすべがないので、昨夜縫ったお着物などを手に提げて、自分も相応の衣に着替えて、乗った。二条院は近いので、まだ明るくならないうちに到着なさって、西の対にお車を寄せて、お降りになる。少女をたいそう軽々と抱きかかえて、お降ろしになる。少納言は「やはりまるで夢のような気持ちがいたします。どういたしましたら、よろしいのでしょう」と言って、ためらっているので、「それは〔あなたの〕お気持ちなのでしょうね。〔少女〕ご本人はお移し申し上げたのだから、帰ってしまおうというなら、送りましょうよ」と、おっしゃるので、仕方なく、降りた。
底本:北村季吟『湖月抄』延宝元年[1673]刊・国立国会図書館所蔵 本別3-1 第5冊。本文画像:所蔵機関の公開資料。延宝元年(1673)刊『湖月抄』の大字本文を原画像とOCRで照合した独自編集本文です。通行字体・現行仮名へ写し、濁点・句読点を補い、反復符を展開しています。発音の読みと独自訳を添え、補った主語などは〔 〕で示します。