ATAWI 古典文学JAPANESE CLASSICS, AT YOUR PACE

第5帖 若紫 / 第4場面

僧都のもてなし

あらすじ・人物・読み方

僧都は源氏を自分の僧坊へ迎えます。源氏は、昼に見た少女の身の上を尋ねます。

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現代語で読む

〔源氏が〕横になっていらっしゃると、僧都のお弟子が惟光を呼び出させる。すぐ近くなので、源氏もそのままお聞きになる。〔僧都は〕「お立ち寄りになっていたことを、つい今人が申しますので、すぐにでもお伺いすべきところですが、〔私が〕この寺に籠もっておりますことをご存じでありながら、お忍びになっていたことを、恨めしく存じまして。草のむしろ〔ほどの粗末なお寝床〕も、こちらの僧坊にお支度すべきでしたのに。たいそう残念なことです」とお伝えになった。

〔源氏は〕「この十日余りほど前から、わらわ病を患っておりまして、〔発作が〕何度も重なって、耐えがたくございますので、人の教えのまま、急に尋ねて参りましたが、こういう〔修行の〕方が効き目をお現しになれない時は、きまりの悪いことになるだろうことも、普通の場合より気の毒で、遠慮いたしまして、たいそう忍んで参ったのでした。すぐそちらへも〔参ります〕」と、おっしゃった。すぐに僧都がおいでになった。

〔僧都は〕法師ではあるけれど、たいそうこちらが気おくれするほど立派で、生まれも高貴で、世間から重んじられている方なので、〔源氏は〕簡略なお姿でいることを、きまり悪くお思いになる。〔僧都は〕こうして籠もっている間のお話などを申し上げて、「同じ柴の庵ですけれど、いくらか涼しい水の流れも、お目にかけましょう」と、熱心に申し上げるので、〔源氏は〕あのまだ見ぬ人に、大げさに〔自分の評判を〕言い聞かせていたことを、気恥ずかしくお思いになるが、心を引かれた様子ももっと知りたくて、そちらへおいでになった。

なるほどたいそう格別の趣があって、同じ木や草も風情があるようにお植えになっている。月もない頃なので、遣り水の所にかがり火をともし、灯籠などにも〔火を〕お供えしてある。南側はたいそうこざっぱりとお整えになっていた。どこからともなく焚いた香が、奥ゆかしく香り出て、仏前に焚く香などの香りが満ちているところへ、源氏の風に乗って漂う香りがたいそう格別なので、部屋の中の人々も〔迎えるための〕気配りをするようだ。

僧都は世の無常のお話や来世のことなどを、申し上げてお教えになる。〔源氏は〕ご自分の罪の深さを恐ろしく、どうにもならないことに心を占められて、生きている限り、このことを思い悩むに違いないのだろう、まして来世には〔報いが〕ひどいだろうと、続けてお考えになって、このような暮らしもしてみたいとお思いになるものの、昼間の〔少女の〕面影が心にかかって、恋しいので、

〔源氏は〕「ここにいらっしゃるのは、どなたでしょうか。お尋ね申し上げたいような夢を見たのですよ。今日、その夢と結びついたのです」と申し上げなさると、〔僧都は〕ほほえんで、「唐突なお夢の話でございますね。お尋ねになっても、きっとがっかりなさるでしょう。亡い按察大納言は、亡くなってから長くなりましたので、〔あなたは〕ご存じではないでしょうね。その奥方が私の妹でございます。あの按察が亡くなってから、出家しておりますが、この頃病気をしておりますので、こうして都にも出かけませんので、

頼りにする所に籠もっておりますのです」と、〔僧都は〕申し上げる。〔源氏は〕「あの大納言のお嬢さんがいらっしゃると伺いましたのは。恋愛めいたことでなく、まじめにお尋ねしているのです」と、あてずっぽうにおっしゃると、〔僧都は〕「娘はただ一人おりましたが、亡くなってもう十余年にもなりましたでしょうか。亡い大納言は宮中にお仕えさせようなどと、たいそう大切に育てておりましたが、その望みどおりにもならずに、亡くなってしまいましたので、ただこの尼君が一人で世話に困っておりましたところ、誰の仲立ちによることか、兵部卿の宮が、ひそかに関係をお結びになりましたが、もとからの奥方が高貴なお方であるなどして、穏やかでないことが多く、明け暮れ物思いをして亡くなってしまいました。物思いから病気になるものだと、身近に見たのでございます」と、などとお話しになる。

それではその子なのだな、と〔源氏は〕思い合わせなさった。皇子のご血筋であの方にも似ていらっしゃるのだろうかと、いよいよいとおしくお目にかかりたく、その子自身の様子も気品があって愛らしく、なまじ大人びた気取りもなく、語らい合って、思いのままに教え育ててみたい、とお思いになる。「たいそうお気の毒でいらっしゃることですね。その方には、残された形見〔のお子〕もないのでしょうか」と、幼かった〔少女の〕身の上をなおはっきり知りたくて、お尋ねになると、

〔僧都は〕「〔母親が〕亡くなりました時には、〔子は〕ございました。それも女の子で。その子のことも物思いを誘う種になりまして。〔尼君は〕晩年になって思い嘆いておりますようです」と、申し上げる。やはりそうか、と〔源氏は〕お思いになる。

〔源氏は〕「妙なことですが、〔私を〕幼い方のお世話役とお考えくださるよう、お伝えいただけませんか。思うところがあって通っている先もございますけれど、どうにも気持ちがしっくり来ないのでしょうか、独り住まいばかりでして。まだ似つかわしくない年頃だと普通の人になぞらえてお考えになり、〔私に〕つらい思いをさせるでしょうか」と、などとおっしゃると、

〔僧都は〕「たいそうありがたいお言葉ではございますが、まだまるで幼い年頃でございますので、冗談としても、〔お相手としては〕ご覧になりにくいのでは。そもそも女は周りの人に育てられて、一人前にもなるものですので、詳しいことはお取り次ぎできません。あの方のことは北の方と相談いたしまして、申し上げましょう」と、きっぱり言い、頑固な様子をなさるので、〔源氏は〕お若い心に気おくれして、うまく申し上げることもおできにならない。

〔僧都は〕「阿弥陀仏のいらっしゃる堂で、〔経を〕誦することのある頃でして。初夜の勤行をまだしておりません。済ませてからお伺いしましょう」と、言って上へお行きになった。源氏は気分もたいそう悪いところへ、雨が少し降りそそぎ、山風が冷ややかに吹いていて、滝の淀みにも〔水が〕増して、大きな音が聞こえる。

少し眠たそうな読経が途切れ途切れにもの寂しく聞こえるのなどは、〔特に思い悩むこともない〕普通の人でも、場所柄しみじみと悲しくなる。ましてあれこれとお考えになることの多い〔源氏は〕、まどろむこともおできにならない。初夜と言っていたが、夜もたいそう更けてしまった。

奥にも起きている人の気配はなく、たいそう静かにしているけれど、数珠が脇息に引かれて鳴る音がかすかに聞こえ、親しみの感じられるかすかな身動きの音を上品だとお聞きになって、すぐ近くなので、戸口に立て渡してある屏風の間を少しお引き開けになり、扇をお鳴らしになると、〔中の人は〕思いがけない気がするようではあるが、気づかぬふりをするのも〔失礼だろう〕とにじり出る人がいるらしい。

少し退いて、「変ですね聞き違いでしょうか」と迷うのをお聞きになって、〔源氏は〕「仏のお導きは暗闇に入っても、決して道を違えないはずですのに」と、おっしゃる。お声がたいそう若々しく、気品があるので、〔女は〕自分が出そうとする声までも気おくれがして、「どちらへのお導きでしょうか。存じ上げずに」と申し上げる。

〔源氏は〕「なるほど唐突なことだといぶかしくお思いになるのももっともですけれど、芽生えた草の若葉の上の露を見てから、旅寝の袖も露が乾かずにおります。とお伝えくださいませんか」とおっしゃる。

〔女は〕「まったく、このようなお言葉を、理解してお受け申し上げるべき人もいらっしゃらない事情は、ご存じのようですのに、どなたへ〔お伝えしましょう〕」と申し上げる。〔源氏は〕「何かそう申すわけがあってのことだろうとお考えください」と、おっしゃるので、〔女は〕奥に入ってお伝えする。

〔尼君は〕「なんと今風なこと。あの子が世の中を分かるような年頃においでだとお思いなのでしょうか。それなら、あの若草〔のような少女〕のことをどうして、お聞きになったのでしょう」と、と不審な様子に心も乱れて、時間がたつので、〔返事をしないのは〕情けがないと言って、旅寝をなさる今夜だけの露の湿りを奥山の苔〔の長い間の湿り〕にお比べにならないでください。「〔こちらは〕乾きにくくございますのに」と申し上げなさる。

〔源氏は〕「このような人づてのお言葉のやり取りはまだまったく経験がありません。慣れないことで恐れ入ります。何にせよこの機会にまじめに申し上げたいことがございます」と、お伝えになるので、尼君は「何かお聞き違いになっているのでしょう」と、たいそう気おくれするお相手のご様子に「何とお答え申し上げましょう」と、おっしゃると「おきまりの悪い思いをさせてしまいかねません」と女房たちが申し上げる。

〔尼君は〕「なるほど若い人なら、具合も悪いでしょうが。まじめにおっしゃるのは恐れ多いこと」と、言って、座ったまま近づいていらした。〔源氏は〕「唐突で軽率だとご覧になるに違いない成り行きですが、心ではそう思っておりませんので、仏はおのずから〔お分かりになるでしょう〕」と、言って、大人らしく、こちらが気おくれするほどの様子なので、

〔尼君は〕気おくれして、すぐには言い出すことも、おできにならない。〔尼君は〕「本当に思いも寄らないご縁で、これほどまでお話しいただくのも、浅い〔お気持ち〕からではないのでしょう」と、おっしゃる。「お気の毒だと伺うお身の上ですから、あの亡くなられたという方の代わりに〔私を〕お考えになっていただけませんか。何も分からないほどの年で親しく頼るべき人にも先立たれてしまいましたので、頼りなく、浮いたような心地で年月を重ねております。同じようでいらっしゃるそうですので、同じ身の上の仲間にお加えくださいと、たいそう申し上げたかったのですが、こういう機会もめったになくて。どのようにお思いになるかも遠慮せずに申し出てしまいました」と、お話しになると、

〔尼君は〕「たいそう嬉しく存じるはずのお言葉ではございますけれど、何かお聞き違いになっていることでもございますのではと気が引けまして。この頼りない身一つを頼みの相手としている者はおりますけれど、まだまるで何も分からない年頃で、大目にご覧いただけるところもありそうにありませんので、どうもお言葉を受け止めることも、できませんでした」と、おっしゃる。〔源氏は〕「何も分からぬわけではなく、皆承知しておりますのに。窮屈に遠慮深くお考えにならず、普通とは違う思い寄り方をするその心をご覧ください」と、申し上げなさるが、〔尼君は〕たいそう似つかわしくないことをそうとは知らずにおっしゃるとお思いになり、打ち解けたお返事もない。

僧都がお戻りになったので、〔源氏は〕「ともかくもこうお話し始めましたので、たいそう頼もしく存じます」と、言って、〔屏風を〕押し閉めなさった。

底本:北村季吟『湖月抄』延宝元年[1673]刊・国立国会図書館所蔵 本別3-1 第5冊。本文画像:所蔵機関の公開資料。延宝元年(1673)刊『湖月抄』の大字本文を原画像とOCRで照合した独自編集本文です。通行字体・現行仮名へ写し、濁点・句読点を補い、反復符を展開しています。発音の読みと独自訳を添え、補った主語などは〔 〕で示します。