ATAWI 古典文学JAPANESE CLASSICS, AT YOUR PACE

第5帖 若紫 / 第6場面

都への帰還

あらすじ・人物・読み方

源氏は宮中に帰って療養の経過を伝え、その後、大殿の屋敷へ向かいます。

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現代語で読む

源氏はまず宮中へ参上なさって、ここ数日のお話などを申し上げなさる。〔帝は〕「たいそうひどく衰えてしまった」と言って、不吉なことだとお思いになっている。聖が尊かったことなどをお尋ねになる。〔源氏が〕詳しく申し上げなさると、「阿闍梨などにもなるべき人であるようだ。修行の功は積もっていながら、朝廷で知られていなかったことだ」と、尊んでおっしゃった。大殿がちょうど参上なさって、「お迎えにもと思いましたが、お忍びのお出かけにどうかと遠慮いたしまして。ゆっくり一二日お休みください」と、言って、そのまま、お送り申し上げようとして、

〔大殿が〕申し上げるので、〔源氏は〕それほどにはお思いにならないが、誘われて、退出なさる。〔大殿は〕ご自分のお車にお乗せ申し上げご自身は控えてお供している。大切にお世話申し上げなさるそのお心遣いが、身にしみることを、〔源氏は〕やはり申し訳なくお思いになった。

屋敷でも「〔源氏が〕おいでになるだろう」と気を配って、長いことお目にかかっていない間にいっそう美しい玉の台のように磨き整え、何もかもお整えになっていた。女君はいつものように奥へ引っ込んですぐにはお出にならないので、大臣が熱心にお勧め申し上げて、やっとお渡りになった。まるで絵に描いた物語の姫君のように座らされて、身動きなさることさえ難しく、きちんとしていらっしゃるので、

〔源氏が〕思うことも、ほのめかし山道のお話も申し上げるような時に、話しがいがあって、面白く、お答えになってくださるならこそ心も引かれるだろうに。実際には〔葵の上は〕心も打ち解けず、〔源氏を〕よそよそしく、気づまりな人だとお思いになり、年が重なるにつれお心の隔たりも増してゆくことを、〔源氏は〕たいそうつらくお思いになって、「思いどおりでなく憎らしいことです。世間並みのお顔つきを見たいものです。耐えがたく患っておりましたことにもいかがですかとさえお尋ねにならないのは、珍しくもないことではありますが、やはり恨めしいことです」と、申し上げなさる。

やっと「訪ねないのはつらいものなのでしょうか」と、横目にこちらをお見やりになるその目もとは、たいそう気おされるほどで気品高く、お美しいお姿である。

「めったにない訪れに、呆れたおっしゃりようです。『訪ねない』などと言う関係は別にあるものだということです。つらくなるような言い方をなさいますね。いつも気まずくさせるお扱いをなさるのに、もしお気持ちを変えてくださる時もあるかとああもこうも試み申し上げるのですが、いよいよよそよそしくお思いになるようですね。まあよいせめて命さえ」とおっしゃって、夜のお休み所へお入りになった。

女君はすぐにはお入りにならない。〔源氏は〕お話し申し上げるのに困り果てて、ため息をついて、お臥せになるのも、なんとなく、気に入らないのであろうか、眠そうに振る舞って、あれこれと男女の仲について、思い乱れなさることが多い。

あの若草が育ってゆくありさまがやはり見たいので、〔尼君が〕釣り合わない年頃だとお思いになったのももっともではある。話を持ちかけにくいことではある。どうにかただ気兼ねなく迎え取って、朝夕の慰めに眺めて暮らしたい。兵部卿の宮はたいそう高貴でお優雅でいらっしゃるけれど、華やかな美しさなどはお持ちでないのに、どうしてあの一族に似ていらしたのであろう。〔藤壺と宮が〕同じ后のお腹から生まれたからであろうかなどとお思いになる。その縁がたいそう親しく思われるので、どうにかして、と深く、お思いになる。

底本:北村季吟『湖月抄』延宝元年[1673]刊・国立国会図書館所蔵 本別3-1 第5冊。本文画像:所蔵機関の公開資料。延宝元年(1673)刊『湖月抄』の大字本文を原画像とOCRで照合した独自編集本文です。通行字体・現行仮名へ写し、濁点・句読点を補い、反復符を展開しています。発音の読みと独自訳を添え、補った主語などは〔 〕で示します。