第5帖 若紫 / 第7場面
山への文と使い
あらすじ・人物・読み方
源氏は山へ文を送り、少女との縁を重ねて願います。
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現代語で読む
翌日お手紙をお差し上げになった。僧都にもほのめかしなさるのであろう。尼君には取り合わずにいらしたご様子に気が引けるので、「思っております気持ちもすっかりお伝えできずじまいになってしまいました。このように申し上げることからも並々でない思いのほどを、お分かりくださったら、どれほどうれしいことでしょう」などとひたすら小さく、詰めて、お書きになって、
面影はこの身を離れません、山桜よ。心はすっかりそちらへ残して来たのですが。夜の間に吹く風も気がかりでとある。お筆跡などは言うまでもないが、ただ何気なく、お包みになった様子まで、年の盛りを過ぎた方々の目にはまばゆいほど好ましく見える。「まあ、気が引けること。何とお返事申し上げよう」とお思い悩みになる。
「先のお話もほんのお戯れなのだと考えておりましたのに、わざわざこうしてくださったので、お返事申し上げようもございません。〔少女は〕まだ難波津の歌さえすらすらと書き続けられないようですから、甲斐のないことです。それにしても、嵐の吹く峰の桜が散らないその短い間に心をお留めになったその頼りなさよ。いよいよ心もとなく思われます」とある。
僧都のお返事も同じような調子なので、残念にお思いになって、二三日たって、惟光をお遣わしになる。「少納言の乳母という人がいるはずだ。
探して、詳しく、話をして来い」などと言い聞かせなさる。何という行き届かない所のないお心であろう。あれほど幼い様子であったのを、〔惟光は〕十分にではないが、見た時の様子を思いやるにつけても、面白く思う。
改まって、こうしたお手紙があるのを僧都もありがたく、受け取り申し上げなさる。〔惟光は〕少納言に取り次ぎを頼んでお会いした。詳しく、〔源氏が〕お思いになって、おっしゃる様子や普段のご様子などを話す。話し上手な人でもっともらしく、言葉を続けるけれど、「たいそう無理な年頃でいらっしゃるのに、どのようにお思いなのか」と、誰も彼も不吉なこととお思いになるのであった。
お手紙にもたいそう心をこめて、お書きになって、「あの自由にお書きになったものがやはり拝見したいのです」とあって、例の中に入れた〔手紙〕には、浅香山の名のように浅く、あなたを思っているのではないのに、なぜ山の井の影は離れてゆくのでしょう。お返事は、汲み始めて、悔やむと聞く山の井に浅いままの影をお見せするべきでしょうか。
惟光も同じことを申し上げる。「このお患いになっていることがよくなったら、しばらくして、京のお屋敷にお移りになってから、申し上げましょう」とあるのを、〔源氏は〕待ち遠しく、お思いになる。
底本:北村季吟『湖月抄』延宝元年[1673]刊・国立国会図書館所蔵 本別3-1 第5冊。本文画像:所蔵機関の公開資料。延宝元年(1673)刊『湖月抄』の大字本文を原画像とOCRで照合した独自編集本文です。通行字体・現行仮名へ写し、濁点・句読点を補い、反復符を展開しています。発音の読みと独自訳を添え、補った主語などは〔 〕で示します。