ATAWI 古典文学JAPANESE CLASSICS, AT YOUR PACE

第11帖 花散里 / 第2場面

道すがらの琴とほととぎす

あらすじ・人物・読み方

琴の音の聞こえる家に昔の縁を思い出し、源氏は惟光に歌を託します。

下の同じ枠で原文・発音の読み・現代語を一節ずつ確認できます。どの読み方から始めても読了を記録できます。

表示と音声の設定

任意の復習へ

現代語で読む

中川のあたりをお通りになると、小さな家で、木立などにも風情を凝らした様子のところで、よく響く琴を、東の調べに合わせて、かき合わせ、にぎやかに弾き鳴らしている。〔琴の音に〕お耳も留められて、門が道に近いところなので、少し身を乗り出して中をご覧になると、大きな桂の木から風に乗ってくる香りに、祭りのころが自然と思い出され、何ということもなく様子が趣深いのを、一度だけお会いになった〔人の〕住まいだと、お思い出しになると、そのまま通り過ぎる気にもなれず、時がたってしまったので、〔相手には自分が誰か〕はっきりしないだろうかと遠慮されながらも、通り過ぎかねて、ためらっていらっしゃる。

ちょうどその時、ほととぎすが鳴いて飛び過ぎるのが、〔訪問を〕お勧め申し上げるようなので、お車を引き返させなさって、いつもの惟光を中へお入れになる。

再び昔の思いがよみがえり、鳴かずにはいられないほととぎす。かすかに語り合った家の垣根のところで。

寝殿と思われる建物の、西の端に人々が座っていた。先方にも聞き覚えのある声だったので、声を整え、様子をうかがってから、お言葉を伝える。若々しい様子の人々が大勢で、〔誰からか〕知らないふりをしているらしい。

ほととぎすの訪ねてくる声は、あの声のようですが、まあ、はっきりしません。五月雨の空のように。

わざと分からないふりをしていると見えるので、「まあよい、植えた垣根も」と言って〔惟光が〕出てくるのを、〔女は〕人に明かせない心の内で、悔しくも、しみじみと切なくも思った。そうして遠慮せねばならない事情があるのだろう、それももっともなことなので、〔恨むにも〕割り切れない。このような身分では、筑紫の五節こそかわいらしかったなあと、まず思い出される。どのような折にも、お心の休まる暇がなく、年月がたっても、苦しそうである。やはりこのように、かつてお会いになった相手への情けは、お忘れにならないことが、かえって、多くの人の悩みの種になっている。

底本:北村季吟編『湖月抄』延宝元年[1673]刊・国立国会図書館蔵 本別3-1 第11冊。本文画像:所蔵機関の公開資料。延宝元年(1673)刊『湖月抄』の大字本文を原画像とOCRで照合した独自編集本文です。通行字体・現行仮名へ写し、濁点・句読点を補い、反復符を展開しています。発音の読みと独自訳を添え、補った主語などは〔 〕で示します。