ATAWI 古典文学JAPANESE CLASSICS, AT YOUR PACE

第13帖 明石 / 第16場面

帰京

あらすじ・人物・読み方

難波で祓えを済ませて帰京した源氏は二条院で紫の上と再会し、権大納言に復す。月夜の管弦、明石への文、五節の君との贈答で帖を閉じる。

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現代語で読む

君は、難波の方へ渡って御禊をなさって、住吉にも、平らかでいろいろの願いを果たし申すべき旨を、御使いをさせて申しさせなさる。急に所が狭くて、御自身はこの度お詣りになれず、格別の御逍遥などもなくて、急いでお入りになった。

二条院にお着きになって、都の人も御供の人も、夢の心地がして行き合い、喜び泣きどもが大げさなまでに立ち騒いでいる。

女君〔紫の上〕も、甲斐ないものと思い捨てた命を、嬉しく思われるだろう。たいそう美しく成長し整って、御物思いの間に窮屈だった御髪が少し減ったのさえひどく立派なのを、「今はこのように見るべきだ」と、御心が落ち着くにつけては、また、あの飽かず別れた人の思っていた様子を心苦しく思いやられる。やはり世とともに、このような方で御心の暇がないのか。

その人のことどもなどを申し出なさった。思い出なさった御様子が浅からず見えるのを、ただならずご覧申し上げなさるだろう、わざとでなく「身をば思わず」などとほのめかしなさるのが、面白く可愛らしく思い申し上げなさる。一方、「見るにさえ飽きない御様子を、どうして隔てた年月か」と、あさましいまでに思われるにつけ取り返し、世の中もたいそう恨めしく。

間もなく、元の御位が改まって、定員外の権大納言におなりになる。次々の人も、そうあるべき限りは元の官をお返し賜わり、世に許されるほど、枯れた木が春に逢った心地がして、たいそう目出度い様子である。

お召しがあって、内裏に参りなさる。御前にお仕えなさるにつけ成人し勝って、「どうして、そのような厄介な住まいに年を経なさったのだろう」と見申し上げる。女房などの、院の御時に仕えて老い白髪した者どもは、悲しくて、今さら泣き騒いで褒め聞こえる。

主上も、恥ずかしくさえ思し召されて、御装いなどを格別に引き繕ってお出でになる。御心地が例ならず日ごろをお過ごしになったので、ひどくお衰えになったのを、昨日今日は少しよろしく思われた。御物語がしめやかにあって、夜に入った。

十五夜の月が面白く静かなのに、昔のことを掻き尽くし思い出されて、涙ぐませなさる。物心細く思われるのだろう。

「管弦などもせず、昔聞いた楽の音なども聞かずに、久しくなったことだな」と仰せになるにつけ、海に萎え侘びて、蛭の児のように脚の立たなかった年を経てしまった。と聞こえなさった。たいそう哀れに心恥ずかしく思われて、宮柱に巡り逢った時があるのだから、別れた春の恨みを残すな。

たいそう優美な御様子である。

院の御ために、八講を行われるべきことをまずお急がせになる。春宮を拝見し申し上げなさるにつけ、この上なく御成長あそばされて、珍しくお思い喜びになったのを、限りなく哀れと見申し上げなさる。御才能もこの上なく勝りなさって、世をお保ちになるのに憚りあるはずもなく、賢くお見えになる。

入道の宮〔藤壺〕にも、御心を少し静めて、御対面の間にも、哀れなことどもがあるだろう。

本当は、あの明石には、返る波に御文を遣わす。引き隠して細やかにお書きになるようだ。「波の寄る夜はいかに、嘆きながら明石の浦に朝霧の立つかと人を思いやることだ。」

あの帥の娘・五節は、つまらなく、人知れぬ物思いが覚めた心地がして、硯を調えさせて差し置かせた。須磨の浦に心を寄せた舟人が、そのまま朽ちさせた袖を見せたい。

「筆跡などこの上なく勝った」と、見終わりなさって、遣わす。帰っては託言しようか。寄せていた名残に袖の乾きにくかったのを。

「飽かず面白い」とお思いになった名残なので、驚かされなさって、ますます思い出しなさるけれど、この頃は、そのような御振る舞いはまったく慎みなさるようだ。

花散里などにも、ただ御消息などばかりで、心配で、かえって恨めしい様子である。

底本:北村季吟編『湖月抄』延宝元年[1673]刊・国立国会図書館蔵 本別3-1 第13冊。本文画像:所蔵機関の公開資料。延宝元年(1673)刊『湖月抄』の大字本文を、国立国会図書館デジタルコレクションの原画像(IIIF)と照合した独自編集本文です。通行字体・現行仮名へ写し、濁点・句読点を補い、反復符を展開しています。発音の読みと独自訳を添え、補った主語などは〔 〕で示します。