ATAWI 古典文学JAPANESE CLASSICS, AT YOUR PACE

第14帖 澪標 / 第13場面

難波の御祓とみをつくしの歌

あらすじ・人物・読み方

帰途、源氏は惟光と住吉の松に歌を交わし、難波で御祓に臨んで明石の君へ「みをつくし」の歌を贈る。田蓑の島では昔の流浪を思い、述懐の歌を詠む。

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現代語で読む

住吉の松を見るにつけ、感慨は尽きません。神代の昔のことをまで思うと。

本当にその通りだと、〔源氏は〕思い出しなさって、

荒れ狂った波に迷ったあの折、住吉の神をお頼みしたことを、どうして忘れることがありましょう。

ご利益があることだな」

とおっしゃるのも、たいそう立派である。

例の明石の舟が、この響きに圧されて通り過ぎてゆくのも聞こえると、「知らなかったことよ」と、〔源氏は〕哀れにお思いになる。神のお導きを思い出しなさるのも、並々ではないので、「せめて少しの手紙でも送って、心を慰めたい。〔明石の君は〕さぞ思い悩んでいるだろう」とお思いになる。

御社をお立ちになって、所々で逍遥を尽くしなさる。難波の御祓のために、七瀬の祓所に立派に支度して奉仕する。堀江のあたりを御覧になって、

「今もまた同じ難波であることよ」

と、御心にもなく口ずさみなさったのを、お車のそば近くにいた惟光は、お聞き届けになったのだろうか、そうしたお召しもあるかと、いつもの習慣で懐に用意していた柄の短い筆などを、お車を止める場所で差し上げた。「面白い」とお思いになって、畳紙に、

身を尽くして恋い慕っていた甲斐あって、ここまでも巡り逢えた縁は深いのですね。

と書いてお渡しになると、明石の事情を知っている下人を使いにして〔歌を〕お遣わしになった。〔明石の君は、〕馬を並べて通り過ぎなさるのにも心ばかりが動揺し、ほんの少しの〔歌〕ではあるけれど、たいそう哀れにありがたく思われて、泣いた。

取るに足らぬ身の上で、難波のことも甲斐ないこととしてあきらめていましたのに、なぜ身を尽くして思い始めてしまったのでしょう。

〔明石の君は、この返歌を、源氏が〕田蓑の島で御禊をなさる際の、御祓の供物に添えて差し上げた。日は暮れ方になってゆく。

夕潮が満ちて来て、入江の鶴も声を惜しまないほど哀れな折からだからだろうか、人目も憚らず、〔明石の君に〕逢いたくまでお思いになる。

涙に濡れる旅衣は、昔の流浪の時と似ている。田蓑の島の名には隠れようもない。

底本:北村季吟編『湖月抄』延宝元年[1673]刊・国立国会図書館蔵 本別3-1 第14冊。本文画像:所蔵機関の公開資料。延宝元年(1673)刊『湖月抄』の大字本文を、国立国会図書館デジタルコレクションの原画像(IIIF)と照合した独自編集本文です。通行字体・現行仮名へ写し、濁点・句読点を補い、反復符を展開しています。発音の読みと独自訳を添え、補った主語などは〔 〕で示します。