ATAWI 古典文学JAPANESE CLASSICS, AT YOUR PACE

第15帖 蓬生 / 第10場面

冬の雪と花散里

あらすじ・人物・読み方

霜月、蓬や葎の蔭に雪が深く積もり、君は慰める人もなくつれづれと眺める。源氏の側も騒がしく、君のことは思い出される折があっても年が改まる。卯月、花散里を訪ねる帰り道、月明かりに藤の咲く荒れた家を過ぎ、それが常陸宮と気づいた源氏は惟光を遣わして様子を探らせる。

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現代語で読む

霜月の頃になると、雪や霰が多く、ほかの場所では消える間もあるのに、朝日や夕日を防ぐ蓬や葎の蔭に深く積もって、越の白山が思いやられる雪の中で、出入りする下人さえもなく、〔君は〕つれづれと眺めている。ささやかなことを申し上げて慰め、泣いたり笑ったりして紛らわせてくれた人さえもなく、夜も塵っぽい御帳の中も、傍ら寂しく、物悲しく思われる。

あちらの殿では、珍しい客人たちに、ますます騒がしいご様子で、たいそう重んじてお思いでない所々へは、わざわざお訪ねになることもない。まして、「あの人はまだ世にいるのだろうか」とだけ思い出しなさる折もあっても、お尋ねになるはずのお気持ちも急ぐでもなく過ぎるうちに、年が改まった。

卯月の頃に、花散里をお思い出し申し上げになって、忍んで対の上にお暇を申し上げてお出になる。数日降っていた名残の雨が、今も少し注いで、風情のあるほどに、月が出ていた。昔のお出歩きが思い出されて、艶やかなほどの夕月夜に、道すがら、さまざまなことを思い出しながらいらっしゃると、形もなく荒れた家で、木立ちが茂って森のようになっている所をお過ぎになる。

大きな松に藤が咲きかかって、月影にたおやかに垂れているのが、風に乗ってふっと匂うのが懐かしく、どこからともない香りである。橘とは変わって趣があるので、〔源氏が車から〕乗り出しなさると、柳もひどくしだれて、築地も遮るものがないので、乱れ伏していた。

「見覚えのある木立ちだな」とお思いになるのは、早くもこの宮であった。たいそう哀れで、〔車を〕押し止めさせなさる。例の惟光は、このようなお忍び歩きに遅れないので、お仕えしていた。お召し寄せになって、「ここは、常陸の宮ではないかな」「そのとおりでございます」と申し上げる。「ここにいた人は、まだ眺めているのだろうか。訪れるべきところを、わざわざ出かけるのも仰々しい。このような折に、入って様子を探ってこい。よく尋ね入ってから、口に出して言え。人違いをしては、笑いものだろう」とおっしゃる。

底本:北村季吟編『湖月抄』延宝元年[1673]刊・国立国会図書館蔵 本別3-1 第15冊。本文画像:所蔵機関の公開資料。延宝元年(1673)刊『湖月抄』の大字本文を、国立国会図書館デジタルコレクションの原画像(IIIF)と照合した独自編集本文です。通行字体・現行仮名へ写し、濁点・句読点を補い、反復符を展開しています。発音の読みと独自訳を添え、補った主語などは〔 〕で示します。