第15帖 蓬生 / 第9場面
玉かづらの贈答
あらすじ・人物・読み方
形見に添える身馴れ衣も塩なれてしまったので、君は自らの落ち髪を集めて作った鬘を、昔の薫衣香とともに侍従へ贈り、玉かづらの歌を添える。侍従も返歌で必ず戻ると誓うが、日が暮れて引き出されて行く。残った老人たちまでが次々と離れてゆく。
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現代語で読む
形見に添えて差し上げるべき着慣れた衣も、塩にまみれて古びてしまい、長年の証しとしてお見せすべきものもないので、ご自分の抜け落ちた髪を取り集めて鬘にお作りになったのが、九尺ほどもあって、たいそう清らかなのを、風情のある箱に入れて、昔の薫衣香のたいそう香ばしいのを一壺添えてお与えになる。
絶えることのない縁を頼みにしてきた玉かづらよ。その思いもよらず、こうして遠く離れてしまうのですね。
「亡き母上が、言い置かれたこともありましたので、甲斐のない身であっても、最期まで看取ろうと思ってきました。打ち捨てられるのも道理ですが、誰にお譲りして見せようというのかと、恨めしく思います」と言って、ひどくお泣きになる。侍従も、何も申し上げることができない。
「母上の遺言は、申し上げるまでもなく、長年忍びがたい世の辛さを過ごしてまいりましたのに、こう思いもよらぬ道に誘われて、遠くへおいとましさまようことです」と言って、
玉かづらは絶えても、私の心は絶えることがありません。旅の道すがら、手向の神に誓いをかけて、必ず戻ってまいります。
「この命のことは私にも分かりませんが」などと言うのに、「さあさあ。暗くなってしまった」とつぶやかれて、心も上の空のまま引き出されて行くと、振り返ってばかり見せていた。
長年わびしく暮らしながらも離れずにいた人が、このように別れてしまったことを、たいそう心細くお思いになるにつけ、世に用いられることもない老人までが、「ああ、もっともなことです。どうして〔侍従が〕立ち止まっていられましょう。私たちも、願い続け果てることなどできそうにありません」と、めいめいの身に付けた縁故どもを思い出して、留まるまいと思っているのを、〔君は〕人目に悪くお聞きになる。
底本:北村季吟編『湖月抄』延宝元年[1673]刊・国立国会図書館蔵 本別3-1 第15冊。本文画像:所蔵機関の公開資料。延宝元年(1673)刊『湖月抄』の大字本文を、国立国会図書館デジタルコレクションの原画像(IIIF)と照合した独自編集本文です。通行字体・現行仮名へ写し、濁点・句読点を補い、反復符を展開しています。発音の読みと独自訳を添え、補った主語などは〔 〕で示します。