第15帖 蓬生 / 第11場面
惟光の使い
あらすじ・人物・読み方
こちらでは君が昼寝の夢に亡き父宮を見て、亡き人を恋ふる歌を詠む。惟光が邸に入ると人気もなく、ようやく見つけた格子の内で老女の少将が応対し、女房たちは変わらぬ君の有様を問わず語りに語る。報告を聞いた源氏は、情けなく訪れなかった我が心を思い知り、露を払わせて自ら入る決意をする。
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現代語で読む
こちらでは、ますます物思いに眺める頃で、じっとしていらしたところ、昼寝の夢に亡き父宮がお現れになったので、目覚めて、その名残がたいそう悲しく思われて、雨漏りに濡れた廂の端の方を押し拭わせ、こちらこちらのお座を引き繕わせなどしながら、例になく世間らしくなさって、亡き父を恋い慕う涙で、袂の乾く暇もないのに、荒れた軒から落ちる雫までもが、それに加わることよ。と詠むのも、お気の毒なほどであった。
惟光が入って、あちこち人の音のする方かと見るが、少しの人気もない。「だからこそ、往き来の道から見入っても、人の住む気配もないのだ」と思って、帰り参ろうとする頃に、月が明るく出ているので、見ると、格子を二間ほど上げて、簾の動く様子である。かろうじて見つけた心地がして、恐ろしくさえ思われるけれど、近寄って声をかけると、たいそう古びた声で、まず咳を先に立てて、「あれは誰だ。何者だ」と問う。〔惟光が〕名乗って、「侍従の君と申し上げた方に、お目通りを賜りたい」と言う。
「その方は、ほかにおいでです。けれども、お思い分けになる必要のない女がおります」と言う声は、ひどく年老いてはいたが、聞き覚えのある老人と聞き分けた。
内では、思いもよらず、狩衣姿の男が、忍びやかな様子で穏やかなので、見慣れなくなってしまった目で、「もしかして、狐などの化け物では」と思われるけれど、近くに寄って、「確かにお聞きしたいのです。変わらないご様子であれば、お尋ね申し上げになるはずのお気持ちも、絶えずおありのようですよ。今宵も行き過ぎがてら、お止まりになっているのを、どう申し上げればよいのでしょう。安心なさるように」と言うと、女たちは笑い出して、「お変わりなさるようなご様子であれば、こんな浅茅の原にお移りなさらないではいらっしゃいましょうか。ただ推し量ってお聞かせくださいまし。年を経た人の心にも、類いはないとばかり、珍しい世の中を拝見し過ごしております」と、少しずつ打ち解けて出て、問わず語りもしそうな様子だが、面倒なので、「よしよし。まず、こういうことだと、申し上げましょう」と言って〔源氏の所へ〕参った。
「どうしてそんなに長くかかったのか。どうであったか。昔の跡も見えない蓬の茂りようだな」とおっしゃると、「これこれでございます、たどり寄っておりました。侍従の叔母の少将と申しておりました老人が、変わらない声でおりました」と、様子を申し上げる。
〔源氏は〕ひどく哀れに、「こんな茂みの中で、どんな心地で過ごしていらっしゃるのだろう。今まで訪れなかったことよ」と、ご自分の心の情けなさも思い知らされる。「どうすべきか。このようなお忍び歩きも難しいはずのところ、こういう折でなければ、立ち寄ることもできまい。変わらない様子であれば、まことにそうであろうと、推し量られる人となりであるよ」とはおっしゃいながら、ふとお入りになることは、やはり慎ましく思われる。しかるべきお便りもたいそうお聞かせしたいけれど、御覧になったほどの口の遅さも、まだ変わらずでは、お使いが立って戸惑うのもお気の毒で、思いとどまった。惟光も、「まったく分けてお入りになることはできないほど、蓬の露っぽさでございます。露を少し払わせてから、お入りになるべきでしょう」
底本:北村季吟編『湖月抄』延宝元年[1673]刊・国立国会図書館蔵 本別3-1 第15冊。本文画像:所蔵機関の公開資料。延宝元年(1673)刊『湖月抄』の大字本文を、国立国会図書館デジタルコレクションの原画像(IIIF)と照合した独自編集本文です。通行字体・現行仮名へ写し、濁点・句読点を補い、反復符を展開しています。発音の読みと独自訳を添え、補った主語などは〔 〕で示します。