ATAWI 古典文学JAPANESE CLASSICS, AT YOUR PACE

源氏物語 第15帖

蓬生 よもぎう

あらすじ

須磨に去った源氏を待ち続ける常陸宮の君(末摘花)は、荒れ果てた邸で狐や木霊に怯えながらも亡き親の調度を守り、侍従との別れを経て一人残る。花散里への訪れの帰途、蓬深い邸に気づいた源氏が月夜に分け入って再会し、やがて君は二条院に近い東の院へ迎えられる。

この帖の人物

場面 第1–5場面

第1場面都に残された人々源氏が藻塩垂れつつ須磨にわび住まいしていた頃、都にもさまざまに嘆く人が多かった。二条の上をはじめ身に寄り添う人々の心遣いが源氏を慰めた一方、表立っては名の知れないまま別れた人々も、心を砕いてその身を思いやっていた。第2場面常陸宮の君の心細さ父親王を亡くし、頼る人もない常陸宮の君は、思いがけず源氏の訪れるようになったのを、盥の水に映る星の光のような頼みとして過ごしていた。やがて須磨の騒ぎで訪れは絶え、年月とともに寂しさが深まる。古い女房たちは君の宿世を嘆き、仕える人々も次々に離れていった。第3場面狐の棲む邸もともと荒れていた宮の内は狐の棲みかとなり、梟や木霊が現れるほどになる。邸の木立ちを売って住まいを改めてはという女房たちの勧めも、君は亡き親の面影の残る古い住まいだと言って退ける。調度を欲しがる人々の申し出も女房たちが取り紛らわし、君は亡き人の本意に違うと言って決して手放そうとしない。たまに訪れる兄の禅師の君も世を離れた聖で、庭の草さえ払おうとしない。第4場面野分と古歌八月の野分が荒れた年、廊まで倒れて宮はいっそう荒れるが、盗人さえ寄りつかず、寝殿だけは昔の調えのままに君は静かに明かし暮らす。心遅い君の慰めは古歌や物語の絵で、古りにた厨子から取り出す物語絵を折々のまさぐりものとし、経を読むことや行をすることも恥ずかしく思う昔気質の慎ましさで日々を送る。第5場面侍従への縁談宮に残るのは乳母子の侍従だけで、その叔母にあたる受領の北の方が時々通ってくる。叔母は姫君を軽んじながらも、娘たちの使い人にしたいと琴の音を聞かせてほしいなどと言い寄る。侍従も勧めるが、君のものづつみの深さに、叔母はもどかしく思う。

場面 第6–10場面

第6場面大弐の下向家主人が大弐になって九州へ下ることになり、君を誘おうと言い寄るが、君は決して応じない。北の方は、薮原に年を経る人を源氏の大将も重んじはしないだろうと怨んでなじる。第7場面帰京の報せ源氏が赦されて帰京すると天下が喜び騒ぎ、人々は我先にと志を見せようと競うが、君のことは思い出される気配もなく月日が経つ。大弐の北の方は、こんな有様を源氏が数え上げはしないと言い放ち、田舎へ行くよう勧め、女房たちも同調する。侍従は大弐の甥に言い寄られて出立の支度をするが、君はなお源氏に頼みをかけ、泣き沈む日々を送る。第8場面八講帰りの訪問冬のさなか、二条院の八講に参った大輔の命婦が帰り際に立ち寄り、法会の素晴らしさを語って去る。入れ違いに大弐の北の方が装束を調え車を走らせて乗り込み、侍従だけでも許してほしいと迫る。君は頑なに応じず、つくづくと泣くばかりで、日暮れまで言いわづらった北の方は、ついに侍従だけでもと急がせる。第9場面玉かづらの贈答形見に添える身馴れ衣も塩なれてしまったので、君は自らの落ち髪を集めて作った鬘を、昔の薫衣香とともに侍従へ贈り、玉かづらの歌を添える。侍従も返歌で必ず戻ると誓うが、日が暮れて引き出されて行く。残った老人たちまでが次々と離れてゆく。第10場面冬の雪と花散里霜月、蓬や葎の蔭に雪が深く積もり、君は慰める人もなくつれづれと眺める。源氏の側も騒がしく、君のことは思い出される折があっても年が改まる。卯月、花散里を訪ねる帰り道、月明かりに藤の咲く荒れた家を過ぎ、それが常陸宮と気づいた源氏は惟光を遣わして様子を探らせる。

場面 第11–13場面

出典・底本

底本:北村季吟編『湖月抄』延宝元年[1673]刊・国立国会図書館蔵 本別3-1 第15冊。本文画像:所蔵機関の公開資料。延宝元年(1673)刊『湖月抄』の大字本文を、国立国会図書館デジタルコレクションの原画像(IIIF)と照合した独自編集本文です。通行字体・現行仮名へ写し、濁点・句読点を補い、反復符を展開しています。発音の読みと独自訳を添え、補った主語などは〔 〕で示します。