ATAWI 古典文学JAPANESE CLASSICS, AT YOUR PACE

第15帖 蓬生 / 第12場面

蓬のもとの再会

あらすじ・人物・読み方

源氏は尋ねてもの歌を独りごち、露を払って邸に入る。姫君は北の方が置いた衣に着替え、煤けた几帳の陰で応える。過ぎた年月への謝罪と情け深い言葉のあと、源氏は門の藤に寄せて藤波の歌を詠み、姫君はしるしもなく待ち続けた宿だと返歌する。

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現代語で読む

と申し上げると、〔源氏は〕尋ねて行くとしても、私のほうからこそ訪ねて行こう。道もないほど深く茂った蓬の奥に残る、あの方の心を思えば。と独り言ちて、なお〔車から〕お下りになると、〔惟光が〕お先の露を馬の鞭で払いながらお入れ申し上げる。

雨だれも、なお秋の時雨のように注ぐので、「お傘がございます。なるほど、木の下露は、雨にもまさって」と申し上げる。お指貫の裾は、ひどく濡れてしまったようである。昔でさえあるかないかであった中門などは、まして形もなくなって、お入りになるにつけても、たいそう無徳〔みすぼらしいこと〕であるのを、居合わせて見る人がいないのが、かえって心安かった。

姫君は、それでもと待ち過ごしてきた心も明らかで、嬉しいけれど、たいそう恥ずかしいご様子で対面するのも、たいそう慎ましくお思いであった。大弐の北の方が差し上げ置いたお衣装をも、心に適わないとお思いになった縁で、目にもお入れにならなかったのを、この人々が、香のお唐櫃に入れていたのが、たいそう懐かしい香りのするのを差し上げたので、どうしようもなく、お着替えになって、あの煤けたお几帳を引き寄せていらっしゃる。

〔源氏が〕お入りになって、「長年の隔たりにも、心だけは変わらず、思いやり申し上げてきたのに、それほど驚いてもくださらない恨めしさに、今まで試しに申し上げてきたのを、杉ならぬ木立ちの目印に、通り過ぎることができず、負けてしまったのですよ」と言って、帷子を少しお掻きやりになると、例の、たいそう慎ましそうに、すぐにはお答え申し上げにならない。こうまで分けてお入りになったのが並々でないことに、思いを起こして、かすかに申し上げ出しなさった。

「このような草隠れに過ごしてこられた年月の哀れも、並々ではなく、また変わらない心の習いに、人のお心の内もたどり知らずながら、分けて入ってまいりました露っぽさなどを、どうお思いですか。長年の怠りは、また、世間並みにお許しくださるでしょう。これからのお心に適わないようなことがあれば、言ったことに違う罪も負わねばなりません」などと、それほどお思いでもないことまで、情け深げに申し上げてなさる言葉の数々であるようだ。

立ち止まっておられようとしても、場所の様子をはじめ、眩いほどのご様子なので、ほどほどにおっしゃい過ぎて、お出になろうとする。引き植えたわけでもないのに、松が高くなってしまった年月のほども哀れに、夢のようなご自身の有様も思い続けられる。

通り過ぎがたく見えた藤の花の波は、松こそがこの宿の目印だったからなのだなあ。「数えてみれば、並々でなく月日が積もったことでしょう。都に変わってしまったことの多かったのも、さまざまに哀れです。今、のどかに、田舎の別れに衰えた世の物語もお話しし尽くしたい。年月を経られた春秋の暮らしにくさなども、誰に訴えなさるのかと、他意なく思われるのも、一方では、不思議なことです」などと申し上げると、

長い年月待っていても、何の目印もなかった私の宿を、花の便りがあったからと、通り過ぎて行ってしまわれるだけなのですか。と忍びやかに身じろぎなさった様子も、袖の香りも、「昔よりは大人びてまさっていらっしゃるのだろうか」と思われる。

底本:北村季吟編『湖月抄』延宝元年[1673]刊・国立国会図書館蔵 本別3-1 第15冊。本文画像:所蔵機関の公開資料。延宝元年(1673)刊『湖月抄』の大字本文を、国立国会図書館デジタルコレクションの原画像(IIIF)と照合した独自編集本文です。通行字体・現行仮名へ写し、濁点・句読点を補い、反復符を展開しています。発音の読みと独自訳を添え、補った主語などは〔 〕で示します。