ATAWI 古典文学JAPANESE CLASSICS, AT YOUR PACE

第15帖 蓬生 / 第13場面

東の院へ

あらすじ・人物・読み方

月明かりに昔と変わらぬ調えを見て源氏は心を寄せ、祭や御禊の折に物を贈り庭を繕わせ、二条院近くの邸に迎える支度をする。世の常の人には目も留めない源氏がこの君を引き取るのを人は昔の契りと思う。二年ほど古宮に過ごしたのち、君は東の院へ移り住む。

下の同じ枠で原文・発音の読み・現代語を一節ずつ確認できます。どの読み方から始めても読了を記録できます。

表示と音声の設定

任意の復習へ

現代語で読む

月が入る方になって、西の妻戸の開いている所から、遮るはずの渡殿めいた建物もなく、軒の端も残っていないので、たいそう明るく差し入っていると、あたり一面見えるのに、昔と変わらぬお調えの様子などが、忍草にやつれたお方の見る目よりは、優雅に見えるのを、昔物語に塔を壊した人もあったことを思い合わせると、同じ様子で年を経てしまったのも哀れである。一筋に物控えした様子が、さすがに上品なのも、心憎く思われて、そういう方では忘れまいとお気の毒に思ったものを、長年さまざまな物思いに、うっとりとして隔ててしまった間、辛いと思っただろうと、お気の毒にお思いになる。

あの花散里も、鮮やかに今風になどとは華やぎなさらない所で、ご寵愛の移りようも並々でないのに、難が多く隠れてしまった。

祭や御禊の頃、お支度の数々にかこつけて、人が差し上げた品々が色々に多いのを、しかるべき限りにお心をお加えになる。中でもこの宮には細やかにお思い寄せになって、親しい人々にお言葉を賜り、下部などを遣わして、蓬を払わせ、周囲の見苦しい所に、板垣というものを、しっかりと繕わせなさる。こうしてお尋ね出しになったと、聞き伝えるにつけても、ご自分のためには面目がないので、お移りになることはない。お文をたいそう細やかにお書きになって、二条院に近い所をお造らせになるのを、「そこへお移し申し上げるつもりです。相応しい童女などを、求めてお仕えさせてください」などと、人々の身の上にまでお思いやりになりながら、お訪ね申し上げるので、こんなみすぼらしい蓬の茂みには、置き所もないほど、女房たちも空を仰いで、そちらの方を向いて喜び申し上げていた。

何気ないお慰みにしても、一通りの世間並みの人には、目も留め耳もお立てにならず、世に少しはこれはと思われ、心に留まる節のある所をお尋ね寄せになる方だと、人が知っているのに、こうして引き違い、何事も並大抵でさえないご様子を、表に引き出しなさるのは、どのようなお心であったのだろう。これも昔の契りであるらしい。今はこれまでと、見限ってしまって、さまざまに迷い散り離れていた上下の人々が、私も私もと参ろうと争い出る者もある。お人柄などもまた、埋もれていたいほど立派でいらっしゃるご様子に、心やすく馴れて、格別なことのない並の受領などの家にいる者は、馴れなければ面目のない心地がする者もいて、つけ入る心が見えるように参っては帰り、君は、昔にもまさったご威勢のほどで、物事への思いやりも増して添うたので、細やかにお心をかけていたところ、にわかに活気づいて、宮の内は次第に人目に見え、木草の葉もただものすごく哀れに見えるようにされていたのを、遣水を掻き払い、前栽の根元も涼しげにしなしなどして、格別なおぼえのない下家司で、特に仕えたがる者は、こうしてお心を留めてお思いくださることだと思い取って、お言葉を賜りながら、従い仕え奉る。

二年ほどこの古宮に眺めて過ごしなさって、東の院という所へ、後にはお移し申し上げたのであった。お対面なさることなどは、たいそう難しいけれど、近い垣のほどで、大方へお移りの折にも、差し覗きなどなさりながら、たいそう侮らわしげにお取り扱い申し上げにはならない。

あの大弐の北の方が、上京して驚き思った様子や、侍従が、嬉しいものの、今しばらくお待ち申し上げなかった心の浅さを、恥ずかしく思った程度などを、今もう少し問わず語りもしたいけれど、たいそう頭が痛く、うるさく、物憂いのである。今また機会のある折に、思い出してお聞かせするべきものだ、とさ。

底本:北村季吟編『湖月抄』延宝元年[1673]刊・国立国会図書館蔵 本別3-1 第15冊。本文画像:所蔵機関の公開資料。延宝元年(1673)刊『湖月抄』の大字本文を、国立国会図書館デジタルコレクションの原画像(IIIF)と照合した独自編集本文です。通行字体・現行仮名へ写し、濁点・句読点を補い、反復符を展開しています。発音の読みと独自訳を添え、補った主語などは〔 〕で示します。