ATAWI 古典文学JAPANESE CLASSICS, AT YOUR PACE

第16帖 関屋 / 第1場面

任果てて上る

あらすじ・人物・読み方

伊予介は常陸介となり、空蝉を連れて任に下っていた。源氏の須磨の流寓を遠く聞きながら便りもできず年月が過ぎ、源氏の帰京の翌秋、任果てて上京する。

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伊予介と呼ばれた人は、故院がお崩れになった翌年、常陸介になって下ったので、あの帚木の君〔空蝉〕も連れて行かれた。須磨での源氏のご流寓も遠くに聞いて、人知れず思いを寄せ申し上げなかったわけでもないけれど、伝言を申し上げる手がかりさえなくて、筑波嶺を吹き越す風にも心が浮き立つような思いがして、ほんの少しの便りさえなく、年月が重なっていった。期限の定めもないご流寓だったけれど、〔源氏が〕京にお帰りになって住まわれるようになり、その翌年の秋に、常陸介は任期を終えて上京した。

関に入るその日に、ちょうどこの殿〔源氏〕は石山寺へ願果てしにお参りになっていた。京から、あの紀伊守などといった子息たちや、迎えに来た人々が、「この殿がこのようにお参りになるはずだ」と告げたので、「道中は騒がしいことだろう」と、まだ夜明け前から急いだのだが、女車が多く、場所が狭くてゆっくりと進んでくるうちに、日が高くなってしまった。

底本:北村季吟編『湖月抄』延宝元年[1673]刊・国立国会図書館蔵 本別3-1 第16冊。本文画像:所蔵機関の公開資料。延宝元年(1673)刊『湖月抄』の大字本文を、国立国会図書館デジタルコレクションの原画像(IIIF)と照合した独自編集本文です。通行字体・現行仮名へ写し、濁点・句読点を補い、反復符を展開しています。発音の読みと独自訳を添え、補った主語などは〔 〕で示します。