ATAWI 古典文学JAPANESE CLASSICS, AT YOUR PACE

第15帖 蓬生 / 第2場面

常陸宮の君の心細さ

あらすじ・人物・読み方

父親王を亡くし、頼る人もない常陸宮の君は、思いがけず源氏の訪れるようになったのを、盥の水に映る星の光のような頼みとして過ごしていた。やがて須磨の騒ぎで訪れは絶え、年月とともに寂しさが深まる。古い女房たちは君の宿世を嘆き、仕える人々も次々に離れていった。

下の同じ枠で原文・発音の読み・現代語を一節ずつ確認できます。どの読み方から始めても読了を記録できます。

表示と音声の設定

任意の復習へ

現代語で読む

常陸宮の君は、父の親王がお亡くなりになったあと、そのほかに思いをかけて世話をする人もないお身の上で、たいそう心細そうであったところ、思いがけないご縁ができて、〔源氏が〕お訪ね申し上げになることが絶えなかったのを、厳めしいご威勢からすればものの数でもなく、はかないほどのご情けにすぎないと〔君は〕思っていたけれど、〔源氏を〕待ち受ける袂の狭さに、大空の星の光を盥の水に映したような心地で過ごしていたところに、このような世の騒ぎが起こって、世の中全体を憂い思い乱れた紛れに、もともと深くもない方の志はすっかりお忘れになったようで、遠くへお移りになったあと、無理にでもお尋ね申し上げることができなかった。その名残で、しばらくは泣く泣く過ごしていたが、年月が経つにつれて、哀れに寂しいご様子である。

古くからの女房たちは、

「ああ、たいそう残念なご宿世であることよ。思いがけず神仏がお現れになったかのようだったご心映えに、こんなご縁というのも人にはできるものなのだ、とありがたく拝見していたのに、世間一般の成り行きとは言いながら、また頼る方のないご様子こそ、悲しいことです」

と、つぶやいて嘆く。それ相応に落ち着いていた昔の年月には、言っても仕方のない寂しさに見慣れて過ごしていたのに、かえって少し世間らしく心を許すことに慣れてしまった年月があったために、〔今の寂しさは〕たいそう堪えがたく思い嘆かずにはいられないのだろう。少しでも、そうして仕えるべき人々は自然と参って付き従っていたが、みな次々に〔源氏に〕従って出て散ってしまった。女房の中には命の続かない者もいて、月日の経つにつれて、上の者も下の者も人数が少なくなっていく。

底本:北村季吟編『湖月抄』延宝元年[1673]刊・国立国会図書館蔵 本別3-1 第15冊。本文画像:所蔵機関の公開資料。延宝元年(1673)刊『湖月抄』の大字本文を、国立国会図書館デジタルコレクションの原画像(IIIF)と照合した独自編集本文です。通行字体・現行仮名へ写し、濁点・句読点を補い、反復符を展開しています。発音の読みと独自訳を添え、補った主語などは〔 〕で示します。