ATAWI 古典文学JAPANESE CLASSICS, AT YOUR PACE

第15帖 蓬生 / 第4場面

野分と古歌

あらすじ・人物・読み方

八月の野分が荒れた年、廊まで倒れて宮はいっそう荒れるが、盗人さえ寄りつかず、寝殿だけは昔の調えのままに君は静かに明かし暮らす。心遅い君の慰めは古歌や物語の絵で、古りにた厨子から取り出す物語絵を折々のまさぐりものとし、経を読むことや行をすることも恥ずかしく思う昔気質の慎ましさで日々を送る。

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八月、野分が荒れ狂った年、廊なども倒れ伏し、下の者どもの家々で、頼りない板葺きだったものなどは、骨組みだけがわずかに残って、立ち止まる下衆さえいない。煙も絶えて、哀れに痛ましいことが多かった。

盗人などという向こう見ずな心のある者も、〔うらぶれた様子が〕思いやられるほど寂しいからか、この宮を取るに足らぬものとして踏み過ぎて、寄り付きもしなかったので、このようにひどい野良同然の薮ではあるけれど、さすがに寝殿の中だけは、昔のお仕度も変わらず、艶やかに掃き清める人もいない。塵は積もっても、乱れることのない端正なお住まいで、〔君は〕日々を明かし暮らしている。

はかない古歌や物語などのような慰みごとでこそ、退屈を紛らわせ、このような住まいについても思い慰める術であるらしいが、そうしたことにまで心の遅いお方である。ことさら好ましいわけではないが、自然とまた急ぐこともない折には、同じ心の人と文通し合ったりしてこそ、若い人は木草につけても心を慰めるべきところ、親が大切にお仕込みになったご方針のとおりに、世の中を慎むべきものとお思いになって、まれにでもお便りし合うはずのお方に対しても、まったくお慣れにならず、古くなった御厨子を開けて、『唐守』『藐姑射の刀自』『かぐや姫の物語』の絵に描いたものを、折々の慰みものになさる。

古歌といっても、趣深く選び出して、題も詠み人も明かして心得ているものこそ見所もあるものだが、端正な紙屋紙や陸奥紙などの古びたものに、古言どもの見慣れたものなどは、たいそう興ざめなのを、せめて眺める折々には、引き広げなさる。今の世の人の好む、経を声に出して読むことや、行いなどということは、たいそう恥ずかしくお思いになって、ご覧申し上げる人もいないのに、数珠などをお取り寄せにもならない。このように端正にしていらっしゃったのである。

底本:北村季吟編『湖月抄』延宝元年[1673]刊・国立国会図書館蔵 本別3-1 第15冊。本文画像:所蔵機関の公開資料。延宝元年(1673)刊『湖月抄』の大字本文を、国立国会図書館デジタルコレクションの原画像(IIIF)と照合した独自編集本文です。通行字体・現行仮名へ写し、濁点・句読点を補い、反復符を展開しています。発音の読みと独自訳を添え、補った主語などは〔 〕で示します。