第15帖 蓬生 / 第8場面
八講帰りの訪問
あらすじ・人物・読み方
冬のさなか、二条院の八講に参った大輔の命婦が帰り際に立ち寄り、法会の素晴らしさを語って去る。入れ違いに大弐の北の方が装束を調え車を走らせて乗り込み、侍従だけでも許してほしいと迫る。君は頑なに応じず、つくづくと泣くばかりで、日暮れまで言いわづらった北の方は、ついに侍従だけでもと急がせる。
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現代語で読む
冬になってゆくにつれて、ますます寄り付く方もなく、〔君は〕悲しげに眺め暮らしている。あちらの殿では、故院のための御八講を、世の中を揺るがすほど盛大に行う。とりわけ僧などは、並々の者はお召しにならず、学才に優れ修行に打ち込んだ、尊い方々ばかりをお選びになったので、この禅師の君も参っていらしたのであった。
〔大輔の命婦が〕帰りがけに立ち寄って、「これこれです。権大納言殿の御八講に参っております。たいそう立派で、生ける浄土の荘厳にも劣らず、厳かで素晴らしいことの限りをなさいました。仏菩薩の化身でいらっしゃるのでしょう。五濁の深いこの世に、どうして〔あのようなお方が〕お生まれになったのでしょう」と言って、そのままお出になってしまった。
言葉少なく、世の人に似ないお心映えで、甲斐のない世間話さえお応え申し上げることができない。「それにしても、これほど至らない身の有様を、哀れに頼りなく過ごしていらっしゃるのは、心憂い仏菩薩であることよ」と、辛く思われるのを、「まことに、これが極まりというものだろう」と、次第にお思いになるようになる折に、大弐の北の方が、にわかにやって来た。
普段はそれほど親しくもないのに、誘い立てようという心で、お召しになるべきお装束などを調えて、立派な車に乗り、顔つきや様子も、誇らしげに物思いもなさそうな様子で、思いがけなく走り来て、門を開けさせるところから、人目に悪く寂しいことが限りもない。左右の戸もみなよろめき倒れてしまったので、男たちが手伝ってどうにか開け騒ぐ。どれが、この寂しい宿にも必ず通い分けた跡があるという三つの小径だろうと、たどる。
かろうじて南向きの格子を上げた間に〔車を〕寄せたので、〔君は〕ますますきまりが悪いとお思いだったが、情けないほど煤けた几帳を差し出して、侍従が出て来た。容貌などは、衰えてしまった。長年ひどく困窮してきたけれど、なお清潔そうで品のある様子をして、恐れ多いけれども、〔新しい装束に〕取り替えて差し上げられそうに見える。
「お発ちになることを思いながら、お気の毒なご様子を見捨て申し上げにくいのです。侍従のお迎えに参って来たのです。心憂く思い隔てなさって、ご自身こそちょっとでもお越しにはならないのですから、この人だけでもお許しください、と申すのです。どうしてこんなに哀れげな様子でいらっしゃるのですか」と言って、今にも泣きそうな様子である。けれども、行く道に心をやって、たいそう気持ちよさそうである。
「故宮がいらした時、私を恥ずかしい者だとお思い捨てになって以来、疎々しい間柄になり始めましたが、長年の間、どうして今さら。身分の高いご様子に思い上がり、大将殿などがお通いになるご宿世のほどを、恐れ多くお察ししてきたものですから、親しみ申すにも、憚ることが多くて過ごしてまいりましたが、世の中がこのように定めもなかったものですから、物の数でない身は、かえって気安く暮らせるものでした。及ばぬながら拝見してきたご様子が、たいそう悲しくお気の毒で、近くにいる間は衰える折も、のどかに頼もしく思っておりましたが、このように遠くへおいとますることになっては、後ろめたく哀れにお思いくださるのです」などと語りかけるけれど、〔君は〕心解けてお応えにもならない。
「たいそう嬉しいことですが、世間に似ない有様で、どうして今さら。こうしたままでこそ朽ち果て失せてしまいましょうと、思っております」とばかりおっしゃるので、「まことに、そのようにお思いでしょうけれど、生きている身を捨てて、このようにむさくるしい住まいをする類いは、ありますまい。大将殿が造り磨いてくださるなら、引き換え玉の御台にでも生まれ変わりましょうとは、頼もしくはありますが、今のところは、式部卿宮のご息女よりほかに、特別にお心を分けてくださるお方もいません。昔から風流なお心で、気軽にお通いになっていた所々も、みなお離れになってしまいました。まして、こう頼りない様子で、薮原に過ごしている人を、潔く私を頼ってくださる有様だとお尋ね申し上げることは、たいそう難しいでしょう」などと言い聞かせるのを、その通りだとお思いになるのも、たいそう悲しくて、つくづくとお泣きになる。
けれども、動くはずもないので、さまざまに言いかねて日を暮らして、「それでは、侍従だけでも」と、日が暮れるにつれて急ぐので、〔侍従は〕心慌ただしく、泣く泣く、「それでは、まず今日は。こんなにお責めになるお見送りだけに、参っておりましょう。あちらのおっしゃることも道理です。また、お悩みになるのももっともなことなので、間近に拝見するのもお気の毒です」と、忍びやかに申し上げる。
この人までも打ち捨てて行こうとするのを、恨めしくも哀れにもお思いになるけれど、言い止める術もなくて、ますます声を上げることばかりなさっている。
底本:北村季吟編『湖月抄』延宝元年[1673]刊・国立国会図書館蔵 本別3-1 第15冊。本文画像:所蔵機関の公開資料。延宝元年(1673)刊『湖月抄』の大字本文を、国立国会図書館デジタルコレクションの原画像(IIIF)と照合した独自編集本文です。通行字体・現行仮名へ写し、濁点・句読点を補い、反復符を展開しています。発音の読みと独自訳を添え、補った主語などは〔 〕で示します。