第18帖 松風 / 第6場面
大堰の暮らし
あらすじ・人物・読み方
大堰の邸は明石の海辺に似て、君は昔を思いながら暮らす。形見の琴を弾くと松風が響き合い、尼君と歌を交わす。その様子に源氏は心静まらず、手紙を送る。
下の同じ枠で原文・発音の読み・現代語を一節ずつ確認できます。どの読み方から始めても読了を記録できます。
表示と音声の設定
現代語で読む
家の様子も風情があって、長年過ごした海辺に似ているので、場所が変わった心地もしない。昔のことが思い出されて、しみじみすることが多い。造り添えた廊などが、由緒ある様子に、水の流れも風情よくしてあった。まだ細やかには整っていないけれども、住み慣れればそれでもいられそうである。
親しい家司にお命じになって、お迎えの支度をさせなさった。〔源氏が〕お渡りになることは、あれこれとお計らいになるうちに、幾日も過ぎた。
かえって物思いが続けられて、捨ててきた家も恋しく、所在ないので、あの形見の琴を掻き鳴らす。折からの様子が、たいそう忍びがたいので、人離れた方でくつろいで少し弾くと、松風が思いがけず響き合った。尼君は、物悲しげに寄り臥していらしたが、起き上がって、
身の上を変えて一人帰ってきた山里に、昔聞いたのに似た松風が吹いています。
御方〔明石の君〕は、
故郷で見慣れた世の友を恋いわびて囀る〔鳥の〕声を、誰が分かってくれるでしょうか。
このように物はかなく明かし暮らすところに、大臣〔源氏〕は、かえって心静まらずお思いになるので、人目をも憚りきれずお渡りになるのを、女君〔明石の君〕は、これこれと確かにはお知らせ申し上げていなかったので、例によって、お耳にでも入るかと、ご消息を申し上げなさる。
底本:北村季吟編『湖月抄』延宝元年[1673]刊・国立国会図書館蔵 本別3-1 第18冊。本文画像:所蔵機関の公開資料。延宝元年(1673)刊『湖月抄』の大字本文を、国立国会図書館デジタルコレクションの原画像(IIIF)と照合した独自編集本文です。通行字体・現行仮名へ写し、濁点・句読点を補い、反復符を展開しています。発音の読みと独自訳を添え、補った主語などは〔 〕で示します。