第20帖 朝顔 / 第3場面
斎院との対面
あらすじ・人物・読み方
源氏は南の廂に通され、御簾越しに朝顔の姫君と対面する。神の許しを待つ間に年月を過ごしたという姫君の歌に、源氏は誓いをいさめる神はいまいと応じるが、姫君の心は深く閉ざしたままで、源氏は嘆いて退出する。
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現代語で読む
暗くなった頃であるけれど、鈍色の御簾に、黒い御几帳の透ける影がしみじみとして、追い風が優美に吹き通し、気配が慕わしい。簀子では恐れ多いので、南の廂にお入れ申し上げる。
宣旨が対面して、〔姫君の〕ご意向は申し上げる。「今となって、若々しい心地のする御簾の前ですこと。神にお仕えして古びた年月の骨折りが数えられますが、今は宮中もお邸もお許しくださるだろうと頼みにしておりました」と言って、〔源氏は姫君を〕飽かずお慕いになっていた。
「過ぎた世はみな夢と見なして、今こそ、目覚めてはかないのではないかと、思い定めかねておりますから、骨折りなどは、穏やかなこととお定め申し上げるべきでしょう」と、〔姫君は〕申し出しなさった。〔源氏は〕「まことに定めがたい世だ」と、はかないことにつけても思い続けなさる。
人知れず神の許しを待っている間に、つれない世をこうして長く過ごしてきたことです。今となっては、何の戒めがあって、〔私を〕恨み言わせなさるのでしょう。世間並みに、世にわずらわしいことさえございました後は、さまざまに思い集めてまいりましたことよ。どうにかその一端だけでも〔お聞かせ願いたい〕」と、しきりに申し上げなさる〔源氏の〕ご用意なども、昔よりも今は少し優美な趣さえ添わっていらっしゃった。とはいえ、たいそう年を重ねてはいらっしゃるが、ご身分のほどには見合わぬ若々しさのようである。
世の人のあはれという情えばかりを尋ねるからといって、〔斎院の〕誓いを立てたことだと神がお戒めになるでしょうか。と〔歌が〕あるので、「ああ、心憂いこと。その世の罪は、みな科戸の風に吹き流してしまったことでしょう」とおっしゃる愛嬌も、この上ない。
「禊のことを、神は、どうお思いだったのでしょう」などと、とりとめないことを申し上げるのも、まじめな話としては、たいそう傍ら痛いことである。世慣れないご様子は、年月を経ても、心の奥深くへばかり引き入りなさって、なかなかお話しいただけないのを、〔源氏は〕拝見して悩んでいらっしゃる。
「好色めいたようになってしまったものを」などと、並々でなく嘆いてお立ちになる。
「年を重ねた者には、面目のないことでした。世に知られぬほどやつれた思いを、今こそとだけでもお聞かせするべきではなかったのに、〔よくも〕おもてなしくださったものですね」と言って、お出になる名残に、所狭いほど、例によって〔人々が〕申し上げ合っている。
底本:北村季吟編『湖月抄』延宝元年[1673]刊・国立国会図書館蔵 本別3-1 第20冊。本文画像:所蔵機関の公開資料。延宝元年(1673)刊『湖月抄』の大字本文を、国立国会図書館デジタルコレクションの原画像(IIIF)と照合した独自編集本文です。通行字体・現行仮名へ写し、濁点・句読点を補い、反復符を展開しています。発音の読みと独自訳を添え、補った主語などは〔 〕で示します。