第22帖 玉鬘 / 第12場面
三稜の返歌
あらすじ・人物・読み方
姫君は源氏の文に戸惑いつつも、右近たちに責められて三稜の歌の返しを書く。源氏は二条院の丑寅の町の西の対を住まいと定め、紫の上に夕顔との昔を打ち明けて移転を進める。
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現代語で読む
お手紙を、〔右近が〕自ら退出して、〔源氏の〕おっしゃる様子などを申し上げる。お装束や、人々の料〔衣料〕などがさまざまある。上〔紫の上〕にもお語り申し上げていらっしゃるのだろう、御匣殿などにも、用意の物をお召し集めになって、色合いや仕様など、特別なものをと、お選びになるので、田舎びた目々には、まして珍しいほどに思った。
本人〔玉鬘〕は、「ただ託け言ばかりでも、本当の親のご様子ならばうれしいだろうけれど、どうして知らない人のお側に交じられようか」と、顔をそむけて、苦しそうにお思いだけれど、しかるべき様子を、右近が申し上げて知らせ、人々も、
「自然と、そのように人らしくおなりになれば、大臣の君〔頭中将〕も尋ね知り申し上げなさるでしょう。親子のご約束は、絶えて止まないものです」「右近が、物の数でもございませんのに、どうしてお目にかかれようと思いましたことさえ、仏神のお導きがございませんでしたでしょうか。まして、誰も彼も無事でさえいらっしゃれば」と、皆申し上げて慰める。
「まずお返事を」と、責めて書かせ申し上げる。「たいそう比べものにならないほど田舎びているでしょうものを」と恥ずかしく思っている。唐の紙のたいそう香ばしいのを取り出して、書かせ申し上げる。
数にも入らない三稜が、どういう筋なのでしょうか。憂き世にこうして根を留めたことよ。とだけが、ほのかである。筆跡は、頼りなげで、よろよろしているけれど、上品で残念ではないので、〔源氏の〕お心は落ち着いた。
〔姫君が〕お住みになるべきお方〔住まい〕をご覧になると、「南の町には、空いた対などはない。勢いが特に住み満ちていらっしゃるので、目立って人も多いだろう。中宮がいらっしゃる町は、このような人も住めるほどのどかだけれど、そのようにお仕えする人の列に聞きなすだろうか」とお思いになって、「少し埋もれているけれど、丑寅〔北東〕の町の西の対が、文殿になっているのを、別の方へ移して」とお思いになる。
「一緒に住むにも、ひっそりと感じよくいらっしゃるお方なので、うち語らったりもできるだろう」とお思い置いた。上〔紫の上〕にも、今になって、あの昔の世の物語を申し上げ出しなさった。このようにお心に籠めていらっしゃることがあったのを、恨み申し上げなさる。
「困ったことですね。世にある人の身の上だからといって、問わず語りは申し上げるものでしょうか。このようなついでに隔てないことこそ、人には特に思われますのに」と言って、たいそうしみじみとお思い出しになっている。「人の身の上でもたくさん見たが、思いもよらない仲でも、女というものの心の深さをたくさん見聞きしたので、決して好色な心は持つまいと思ったのに、自然とそうあるまじき者をたくさん見た中に、しみじみと一途に可愛い方は、また類なく思い出される。世に生きていらっしゃれば、北の町におられる人の列には、どうして見なかっただろうか。人の様子は、それぞれであった。才気があり、面白い筋などは劣っていたけれど、上品に可愛くもあったな」
などとおっしゃる。「とはいえ、明石〔の御方〕の列には、立ち並びなさらなかったでしょう」とおっしゃる。やはり北の御殿〔明石の御方〕を、目障りとお心置きになっている。姫君が、たいそう美しくて、何の心もなくお聞きになるのが、可愛いので、また、「もっともだな」と思い返しなさる。
このように言うのは、九月のことであった。お移りになることが、すらすらとどうしてあろうか。よろしい童女や若い女房などを求めさせる。筑紫では、残念でない人々も、京から散り散りに来た者などを、便りにつけて呼び集めなどして仕えさせたが、急に惑い出なさった騒ぎに、皆遅らせてしまったので、また人もいない。京は自然と広い所なので、市女のような者を、たいそうよく求めながら、連れて来る。その人のお子などとは知らせなかった。
底本:北村季吟編『湖月抄』延宝元年[1673]刊・国立国会図書館蔵 本別3-1 第22冊。本文画像:所蔵機関の公開資料。延宝元年(1673)刊『湖月抄』の大字本文を、国立国会図書館デジタルコレクションの原画像(IIIF)と照合した独自編集本文です。通行字体・現行仮名へ写し、濁点・句読点を補い、反復符を展開しています。発音の読みと独自訳を添え、補った主語などは〔 〕で示します。