源氏物語 第22帖
玉鬘 たまかずら
あらすじ
亡き夕顔の娘玉鬘は、四歳で乳母の夫少弐に伴われて筑紫へ下り、母にも増して美しく育つが、肥後の大夫監の執拗な求婚に追われ、夜逃げの船で都へ戻る。初瀬詣での宿で形見の右近と巡り会い、源氏は実の父頭中将に知らせぬまま姫君を二条院に迎えて後見する。歳暮の衣配りと歌の応酬のうちに、姫君の都での暮らしが始まる。
この帖の人物
場面 第1–5場面
第1場面忘れえぬ夕顔源氏は亡き夕顔を忘れられず、形見の右近を紫の上のもとに置いて古人の数に加える。右近は、夕顔の娘が四歳の年に乳母の夫少弐に伴われて筑紫へ下ったまま行方知れずとなった経緯を胸に秘めている。第2場面筑紫への船路行方知れぬ母を尋ねあぐねた乳母たちは、若君のことを父のもとへほのめかすこともできず、舟で筑紫へ下る。大島の沖で舟人の歌を聞き、乳母と少弐は夕顔を恋うて歌を交わす。第3場面少弐の遺言筑紫に着いた少弐は任果てて病に伏し、姫君を京へ率て父に知らせるよう息子たちに言い置いて死ぬ。姫君は母にも増して美しく育ち、片端があるという噂を流して求婚者たちを遠ざけている。第4場面大夫監の求婚肥前の姫君の評判は広まり、肥後の大夫監が執拗に求婚する。少弐の息子たちの心は割れるが、中の兄豊後介は、亡き少弐の言い置きどおり姫君を京へ上げる決意を固める。第5場面鏡の神の歌大夫監が屋敷を訪れ、后の位に落とさぬなど大言を並べて祖母おとどを口説く。帰り際、松浦の鏡の神に誓う歌を詠みかけ、姫君は長年の祈りを込めた歌で切り返す。
場面 第6–10場面
第6場面夜逃げの船出大夫監の迎えの日取りを前に、一行は夜逃げして舟に乗る。追手を恐れて響の灘を越え、川尻に着くまで、姫君と豊後介は行く末を案じて歌を交わし、豊後介は妻子を捨てた悔いを噛む。第7場面都の困窮京の九条のあばら家に身を寄せた一行は、心細い暮らしに沈む。豊後介と乳母は姫君を励まし、八幡への礼参りを経て、験あらたかな初瀬詣でを決意し、徒歩の旅に出る。第8場面初瀬の宿の再会徒歩の初瀬詣では難儀の連続で、椿市の宿にようやくたどり着く。そこへ参籠の右近が現れ、下人の三条との応答から互いの素性が知れて、乳母たちと二十年ぶりの再会に泣き交わす。第9場面長谷寺の夜語り右近は一行を自らの宿の間に移し、乳母と昔語りに夜を明かす。三条の身の上自慢をはさみつつ、右近は源氏の今の栄華と、亡き夕顔への変わらぬ思慕を語って聞かせる。第10場面初瀬川の贈答翌日も長谷寺に籠もる一行に、右近は初瀬川のほとりで二本の杉の歌を詠みかけ、姫君は逢ふ瀬の歌で応える。右近は六条院へ帰る支度をし、乳母と今後の行き交わしを言い交わす。
場面 第11–15場面
第11場面源氏への報告六条院に戻った右近は、紫の上の前では憚って直接は語らず、折を見て源氏に夕顔の娘の発見をほのめかす。源氏は父中将には知らせず自ら後見する決意をし、三島江の歌を添えた文を姫君へ送る。第12場面三稜の返歌姫君は源氏の文に戸惑いつつも、右近たちに責められて三稜の歌の返しを書く。源氏は二条院の丑寅の町の西の対を住まいと定め、紫の上に夕顔との昔を打ち明けて移転を進める。第13場面二条院での対面十月、姫君は五条の右近の里を経て二条院の西の対へ移り、源氏は東の対の紫の上にも後見を頼む。その夜、源氏は初めて姫君と対面し、亡き夕顔に生き写しの姿に涙ぐみ、玉かづらの歌を独り詠む。第14場面頭中将の参上源氏は実の父である頭中将にも姫君の存在を知らせ、中将は正式に二条院へ参上して娘と対面する。豊後介はこなたの家司に取り立てられ、姫君の暮らしは整っていく。第15場面歳暮の衣と学問談義歳暮、源氏は后妃たちへの衣配りに姫君の分を紛れさせる。末摘花の古風な唐衣の返歌に源氏と紫の上は笑い、源氏は姫君に女の学問と歌の心得を説き、姫君は片敷の歌を書き付けて帖を閉じる。
出典・底本
底本:北村季吟編『湖月抄』延宝元年[1673]刊・国立国会図書館蔵 本別3-1 第22冊。本文画像:所蔵機関の公開資料。延宝元年(1673)刊『湖月抄』の大字本文を、国立国会図書館デジタルコレクションの原画像(IIIF)と照合した独自編集本文です。通行字体・現行仮名へ写し、濁点・句読点を補い、反復符を展開しています。発音の読みと独自訳を添え、補った主語などは〔 〕で示します。