第22帖 玉鬘 / 第13場面
二条院での対面
あらすじ・人物・読み方
十月、姫君は五条の右近の里を経て二条院の西の対へ移り、源氏は東の対の紫の上にも後見を頼む。その夜、源氏は初めて姫君と対面し、亡き夕顔に生き写しの姿に涙ぐみ、玉かづらの歌を独り詠む。
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現代語で読む
〔姫君を〕まずひそかに右近の里の五条へお移し申し上げ、人々を選び整え、装束を整えるなどして、十月にお移りになる。大臣〔源氏〕は、東の御方〔紫の上〕に〔事情を〕お伝え申し上げなさる。「あはれと思った人〔夕顔〕が、人を避けて、はかない山里に隠れていたのを、幼い子〔玉鬘〕がいたので、長年人知れず尋ねておりましたが、聞き出せず、娘に成長するまで過ぎてしまったのを、思いがけない方から聞きつけたこの時にせめてと、お移しするのです」と言って、「母〔夕顔〕も亡くなった。中将〔頭中将〕に知らせたところで、悪くはあるまい。同じように後見してください。山家者めいて育ったので、田舎びたことも多かろう。適宜、折に触れて教えてください」
と、たいそう細やかに申し上げなさる。「まことに、そのような方がいらっしゃったのを、存じ上げませんでした。姫君〔紫の上の娘〕がお一人でいらっしゃるのが物足りないのに、よいことですこと」と、穏やかにおっしゃる。「あの親だった人〔夕顔〕は、心が得難いほどよかった。〔あなたの〕お心も後ろ安く思い申し上げますので」
などとおっしゃる。「ふさわしく世話をする人なども、さほど多くなく、退屈しておりますから、うれしいはずのことです」とおっしゃる。お邸の人々は、〔源氏の〕ご息女とも知らず、
「どなたを、また尋ね出しなさったのだろう」「面倒な古参者の扱いだこと」と言っていた。お車を三台ほど仕立て、人々の身なりなども、右近がいるので、田舎びずに仕立てた。お邸からは、綾など何かとお贈りになっている。
その夜、さっそく大臣の君〔源氏〕がお渡りになった。昔、光る源氏などというご名声は聞き及んでいたけれど、長年のうぶさで、それほどとも思い申し上げていなかったのを、ほのかな大殿油の明かりに、御几帳のほころびからわずかに拝見すると、ますます恐ろしくさえ思われる。
お渡りになる方の戸を、右近が押し開けると、「この戸口に入るべき人は、心が特別でなければ」とお笑いになって、廂のお座所にお座りになって、「灯火は、たいそう恋しげな心地がします。親の顔は見たいものと聞きます。そうお思いにならないか」
と言って、几帳を少し押しやりなさる。〔姫君は〕ひどく恥ずかしいので、横を向いていらっしゃる様子などが、たいそう見苦しくなく見えるので、うれしくて、「今少し、明かりを見せようか。あまりに奥ゆかしい」とおっしゃると、右近が〔灯火を〕掲げて少し近づける。「恥ずかしがる人だこと」
と少しお笑いになる。なるほどと思われる御まなざしの恥ずかしげなことである。少しも他人と隔てのある様子にお話しにならず、たいそう親らしくして、「長年ご行方を知らず、心にかけない時なく嘆いておりましたが、こうして拝見するにつけても、夢のような心地がして、過ぎた昔のことどもも加わり、堪えがたくて、申し上げられませんでした」
と言って、お目を押し拭いなさる。本当に悲しく思い出される。〔姫君の〕ご年齢のほどをお数えになって、「親子の仲で、このように年を隔てた例はあるまいものを。宿縁が薄くもあったことよ。今は、うぶうぶしく、若ぶりなさるようなご年齢でもないのに、長年のお話などを申し上げたいのに、どうしてはっきりなさらないのか」
とお恨みになると、申し上げることもなく、恥ずかしいので、「足も立たず沈み始めてしまいました後は、何事もあったのかなかったのか〔分からぬほど〕で」と、かすかに申し上げなさる声は、昔の人〔夕顔〕によく似て若々しかった。ほほ笑んで、「沈んでいらっしゃったのを、あはれとも、今となっては、また誰が〔思うでしょう〕」
と言って、心ばえが甲斐なしではないお返事だと思いなさる。右近に、あるべきことをお命じになって、お渡りになった。〔姫君が〕見苦しくなくていらっしゃるのを、うれしく思いなさって、上〔紫の上〕にもお話し申し上げなさる。「あのような山家者の中で年を経たので、どれほど痛々しかろうと見くびっていたのを、かえってこちらが恥ずかしくなるほど見えます。このような者がいると、どうにか人に知らせて、兵部卿宮などが、この垣根の内を好ましくなさる心を乱させたいものだ。好色者どもが、たいそう格式ばってばかりこの辺りに見えるのも、このような者の種がないからだ。たいそうもてなしたいものだ。なお打ち解けない人々の様子を見集めよう」
とおっしゃると、「妙な人の親ですこと。まず人の心を励ますことを先にお考えになるのですね。けしからんことです」とおっしゃる。「本当にあなた〔紫の上〕をこそ、今の心であったなら、そのようにもてなして見たかったでしょうに。たいそう無心に仕上げてしまったことでした」
と言って、お笑いになると、〔紫の上は〕顔を赤らめていらっしゃり、たいそう若く愛らしい。硯を引き寄せなさって、手習いに、恋い続けてきた身はその〔夕顔の〕ままであったけれど、玉かづらよ、どのような血筋を尋ねてやって来たのだろう。ああ、しみじみと
と、そのまま独り言を言いなさると、「なるほど、深く思いなさった人の名残のようだ」と〔紫の上は〕ご覧になる。
底本:北村季吟編『湖月抄』延宝元年[1673]刊・国立国会図書館蔵 本別3-1 第22冊。本文画像:所蔵機関の公開資料。延宝元年(1673)刊『湖月抄』の大字本文を、国立国会図書館デジタルコレクションの原画像(IIIF)と照合した独自編集本文です。通行字体・現行仮名へ写し、濁点・句読点を補い、反復符を展開しています。発音の読みと独自訳を添え、補った主語などは〔 〕で示します。