ATAWI 古典文学JAPANESE CLASSICS, AT YOUR PACE

第23帖 初音 / 第6場面

明石の御方の手習と歌、源氏そのまま泊まる

あらすじ・人物・読み方

夕方、源氏は明石の御方へ渡る。君の手習に書かれた歌や故事の断片を源氏が微笑んで眺めるうち、君の格別な趣に惹かれ、そのまま泊まる。

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現代語で読む

夕暮れ方になる頃に、〔源氏は〕明石の御方へお渡りになる。近くの渡殿の戸を押し開ける時から、御簾の内からの追い風が、優美に吹き匂って、何よりも特に気高く思われる。ご本人〔明石の君〕は見えない。どこかと見回しなさると、硯のあたりが賑やかで、草子などを取り散らしてあるのを手に取りながらご覧になる。唐の東京錦の仰々しい端を刺した茵に、趣のある琴を置き、わざとらしいほど趣のある火桶に、侍従〔の香〕をくゆらせて、物ごとに〔香が〕しみているところに、衣被香の香が混じっているのが、たいそう艶やかである。手習いの数々が乱れて打ち解けた様子であるのも、趣が変わっていて、由緒のある書きぶりである。仰々しく草書がちになど戯れ書きせず、見やすく書き清めている。

小松〔への姫君の返歌〕を、珍しいと見たままに、しみじみとした故事などを書き混ぜて、珍しいことよ。花の宿に木を伝って来て、谷の古巣を訪ねる鴬とは。〔鴬の〕声を待ち出していた〔と書き添えた断片〕なども、「咲いている岡のほとりに家があるので」〔と書き添えた断片〕などと、繰り返し慰めた趣旨などを書き混ぜ続けているのを、〔源氏が〕手に取ってご覧になりながら微笑んでいらっしゃるのが、〔明石の君には〕恥ずかしそうである。

〔源氏が〕筆をさっと濡らして書き流しなさる頃に、〔明石の君が〕居ざり出て来て、さすがに自身の振る舞いは、かしこまって控え、無難な心遣いであるのを、「やはり、人よりは格別だ」と〔源氏は〕お思いになる。白い〔衣〕に、鮮やかな髪のかかり具合が、少しさらりとするほどに薄くなっているのも、ますます優美さが加わって、懐かしいので、「新しい年のお騒がせになるだろうか」と、遠慮されるけれど、〔源氏は〕こちら〔明石の御方〕にお泊まりになった。「やはり、〔明石の君の〕評判は格別だよ」と、〔源氏は〕方々に対して気がねしながらお思いになる。

底本:北村季吟編『湖月抄』延宝元年[1673]刊・国立国会図書館蔵 本別3-1 第23冊。本文画像:所蔵機関の公開資料。延宝元年(1673)刊『湖月抄』の大字本文を、国立国会図書館デジタルコレクションの原画像(IIIF)と照合した独自編集本文です。通行字体・現行仮名へ写し、濁点・句読点を補い、反復符を展開しています。発音の読みと独自訳を添え、補った主語などは〔 〕で示します。