ATAWI 古典文学JAPANESE CLASSICS, AT YOUR PACE

第25帖 蛍 / 第2場面

蛍の夜、兵部卿宮の訪問

あらすじ・人物・読み方

兵部卿宮が対を訪れ、几帳を隔てて思いを訴える。奥に引く玉鬘を見た源氏は、薄い布に包んでおいた蛍を放ち、その光で姫君の姿を宮にのぞかせる。宮は歌を贈り、玉鬘も返歌をして、宮は夜更けて濡れながら帰る。

下の同じ枠で原文・発音の読み・現代語を一節ずつ確認できます。どの読み方から始めても読了を記録できます。

表示と音声の設定

任意の復習へ

現代語で読む

妻戸の間に御茵〔宮のお座りになる敷物〕をお差し上げて、御几帳だけを隔てての、近いほど合いである。

たいそうひどく気を使って、空薫物を心憎いほどに匂わせて、お整えになっていらっしゃる様子は、親ではなくて、むずかしい利口ぶった人のようで、さすがにしみじみとお見えになる。宰相の君なども、人のお答えが聞こえるだろうことも思われず、恥ずかしくて座っていたのを、「埋もれている」と、〔源氏が姫君を〕お引きつまみになると、たいそう困ったことである。

夕闇が過ぎて、はっきりしない空の様子の曇りがちであるところに、しっとりとした宮〔蛍宮〕のご様子も、たいそう艶である。内からほのかに吹く追い風も、たいそう強いお匂いが立ち添っているので、たいそう深く薫り満ちて、かねて思っていたよりもをかしいご様子を、〔宮は〕心に留めなさった。

口に出して、思う心のほどをおっしゃり続けた言葉は、おとなしく立派で、ひたすら恋恋しくはなくて、たいそう様子が格別である。大臣〔源氏〕は、たいそうをかしいと、ほのかにお聞きになっている。

姫君は、東面に引き入ってお休みになっていたのを、宰相の君がご消息のお伝え役として、いざり入ったのにつけて、「たいそうあまりに暑苦しいおもてなしです。万事は、様子に従ってこそ無難なものです。ひたすら若々しくなさるべきご様子でもありません。この宮たちにさえ、遠ざけた人伝てに申し上げなさるべきことではありませんよ。お声こそお惜しみになるとしても、少しは親しくだけでもなさいませ」

などと、諌め申し上げなさるけれど、〔宮は〕たいそう無理が通らず、言い訳しても這い入りなさりそうなご性分なので、あれやこれやと困り果てたので、〔姫君は〕すべり出て、母屋の際にある御几帳のもとに、傍らにお臥しになっている。

あれこれと言い長いお答えを申し上げなさることもなく、お思いためらっているところに、〔源氏が〕お寄りになって、御几帳の帷子を一重お掛けになるのに合わせて、さっと光るもの〔があった〕。紙燭を差し出したのかと〔宮は〕呆れた。

蛍を薄い布に、この夕方たいそう多く包んでおいて、光を包み隠しなさっていたのを、さりげなく、あれこれ引き整えるふうにして〔放った〕。

にわかにこのように明らさまに光ったので、あきれて、扇を差し隠しなさっている傍目が、たいそうをかしい。

「驚くべき光が見えれば、宮もお覗きになるだろう。わが娘と思うほどのご配慮で、このようにまでおっしゃるようだ。人となりや容貌などが、たいそうこれほど備わっていようとは、推し量りなさるまい。たいそうよくお慕い申し上げるべき心を、惑わせよう」と、〔源氏は〕身構えて歩き回りなさるのであった。本当の自分の姫君〔娘〕ならば、このようには、もて騒ぎなさるまい、〔それほど〕嫌なご心であった。

別の方から、そっとすべり出て、〔源氏は〕お渡りになった。

宮は、人がいらっしゃるほど合いは、それほどかと推し量りなさるが、少し親しい様子がするので、お心をときめかせられなさって、言いようもない薄物の帷子の隙から見入れなさると、一間ほど隔てた見渡しに、このように覚えのない光がほのかに見えるのを、をかしいとご覧になる。

〔源氏は〕ほどなく紛らわせて〔蛍を〕隠した。それでもほのかな光は、艶なことの端々にもなりそうに見える。ほのかながら、すらりとお臥しになっていたお姿のをかしかったのを、飽きずにお思いになって、なるほど、このことはお心にしみたのであった。

鳴く声も聞こえない虫〔蛍〕の思いでさえ、人の消す〔灯〕には消えてしまうものでしょうか。いえ、消えはしません。〔私の思いが〕お分かりになりましたか」

と申し上げなさる。このようなお返しを、思い巡らすのもひねくれているので、〔姫君は〕早いことだけを〔心がけなさる〕。

声も立てず身をのみ焦がす蛍こそ、言葉に言うよりまさる思いをしているのでしょう。などと、はかなく申し上げたことにして、ご自身は引き入りなさってしまったので、たいそう遠くおもてなしなさる嘆かわしさを、〔宮は〕ひどくお恨み申し上げなさる。

恋しげな様子なので、お座りのまま夜を明かしもなさらず、軒の雫〔に濡れる〕のも苦しさに、濡れながら夜深くお帰りになった。時鳥なども必ずや鳴いたことだろうよ。うるさいからこそ、〔人は〕聞き留めもしない。

底本:北村季吟編『湖月抄』延宝元年[1673]刊・国立国会図書館蔵 本別3-1 第25冊。本文画像:所蔵機関の公開資料。延宝元年(1673)刊『湖月抄』の大字本文を、国立国会図書館デジタルコレクションの原画像(IIIF)と照合した独自編集本文です。通行字体・現行仮名へ写し、濁点・句読点を補い、反復符を展開しています。発音の読みと独自訳を添え、補った主語などは〔 〕で示します。