第26帖 常夏 / 第4場面
撫子の贈答
あらすじ・人物・読み方
源氏は、撫子を大臣にも見せたいと昔の夕顔のことをほのめかし、「撫子のとこなつかしき色を見ば、もとの垣根を人や尋ねむ」と詠む。玉鬘は泣きながら「山賤の垣ほに生ひし撫子の、もとの根ざしを誰れか尋ねむ」と返し、源氏の思いはますます堪えがたくなる。
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現代語で読む
「撫子を飽きるほど見ても、この人々が立ち去ってしまうことよ。どうにか、大臣〔内大臣〕にも、この花園をお見せしたいものだ。世もたいそう常ないものと思えば、昔も、もののついでにお話し出になったことが、ただ今のことのように思われます」と言って、少しお話し出になったのにも、たいそう哀れである。撫子の常夏らしい色を見たなら、もとの垣根を人が尋ねて来るだろうか。このことの煩わしさのためにこそ、繭ごもりも心苦しく思われます」
とおっしゃる。君〔玉鬘〕は、うち泣いて、山賤の垣のほとりに生えた撫子の、もとの根ざしを、誰が尋ねましょうか。心もとなげに申し上げていらっしゃる様子は、なるほどたいそう懐かしく若々しい。
「来ざらましかば」とうち誦じなさって、ますますの御心は、苦しいまで、やはり堪え果てられそうもなくお思いになる。
底本:北村季吟編『湖月抄』延宝元年[1673]刊・国立国会図書館蔵 本別3-1 第26冊。本文画像:所蔵機関の公開資料。延宝元年(1673)刊『湖月抄』の大字本文を、国立国会図書館デジタルコレクションの原画像(IIIF)と照合した独自編集本文です。通行字体・現行仮名へ写し、濁点・句読点を補い、反復符を展開しています。発音の読みと独自訳を添え、補った主語などは〔 〕で示します。