第28帖 野分 / 第2場面
妻戸の隙からの玉鬘
あらすじ・人物・読み方
玉鬘のもとにいる源氏のもとへ参上した夕霧は、東の渡殿から妻戸の隙を覗き、風で屏風が畳まれた先に座る玉鬘の比類ない美しさに心を奪われる。やがて源氏が姿を現し妻戸の開いていたことに気づくが、夕霧は長年なかった幸運な垣間見を、風のおかげと喜ぶ。
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現代語で読む
大臣〔源氏〕が姫君〔玉鬘〕のお部屋にいらっしゃる折に、中将の君〔夕霧〕が参上して、東の渡殿の小障子の上から、妻戸の開いている隙間を、何気なく覗き込んだところ、女房が大勢見えたので、立ち止まって、音も立てずに〔中を〕見ている。御屏風も、風が強く吹いたので押し畳んで寄せてあったため、見通しのきく露わな廂のお座所に座っていらっしゃる人〔玉鬘〕は、ほかのものと見紛うべくもなく、気高く清らかで、ぱっと匂い立つような心地がして、春の曙の霞の間から、見事な樺桜が咲き乱れているのを見る心地がする。つまらないことに、〔玉鬘を〕拝見する自分の顔にまで移ってくるように、愛嬌が匂い散って、またとないほど珍しく美しいお方の御様子である。
御簾が吹き上げられるのを、人々が押さえて、どうしたことか、〔玉鬘が〕微笑んでいらっしゃるのが、たいそう美しく見える。〔玉鬘は〕花々を気の毒に思って、見捨てて〔室内に〕入ることがおできにならない。御前にいる人びと〔女房たち〕も、さまざまに何かと清らかな姿が見渡されるが、〔夕霧の〕目が移るはずもない。「大臣〔源氏〕がたいそう隔てて遠ざけるようにお扱いなのは、これほど〔玉鬘を〕見る人がただでは思っていられない御様子を、行き届いた深いお考えで、もしかするとこういうこともあろうかとお思いになってのことなのだな」
と〔夕霧が〕思うと、〔源氏の〕気配が恐ろしくて、立ち去ろうとしたところ、西のお部屋から、内側の御障子を引き開けて〔源氏が〕渡っていらっしゃる。「まったく嫌な、慌ただしい風のようですね。御格子を下ろしてください。男たちもいるでしょうに、丸見えではありませんか」と〔源氏が玉鬘に〕申し上げなさるのを、〔夕霧が〕また寄って見ると、物音が聞こえて、大臣〔源氏〕も微笑んで〔玉鬘を〕拝見なさっている。親とは思えないほど、若く清らかで優美で、素晴らしい御容貌の盛りである。
女〔玉鬘〕も年相応に整い、物足りないところのない御様子であるのを、〔夕霧は〕身にしみるほどに感じるが、この渡殿の格子も吹き放たれて、立っている場所が丸見えになったので、恐ろしくて立ち退いた。今参上したばかりのように声を装って、簀子の方へ歩み出ていらっしゃったところ、「やはりそうだ。丸見えだったのだろう」と言って、「あの妻戸が開いていたのだよ」と、今になって〔源氏が〕見咎めなさる。「長年このようなことは少しもなかったのに。風とは、まことに巌をも吹き上げてしまいそうなものなのだなあ。あれほどのお心をあれこれ騒がせて。珍しく嬉しい光景を見たことだ」と〔夕霧は〕感じる。
底本:北村季吟編『湖月抄』延宝元年[1673]刊・国立国会図書館蔵 本別3-1 第28冊。本文画像:所蔵機関の公開資料。延宝元年(1673)刊『湖月抄』の大字本文を、国立国会図書館デジタルコレクションの原画像(IIIF)と照合した独自編集本文です。通行字体・現行仮名へ写し、濁点・句読点を補い、反復符を展開しています。発音の読みと独自訳を添え、補った主語などは〔 〕で示します。