第28帖 野分 / 第5場面
夜通し玉鬘を思う夕霧
あらすじ・人物・読み方
夕霧は一晩じゅう、恋しく思う玉鬘のことを脇に置いて、先に目にした御面影が忘れられず、あるまじき思いが生じはしないかと自分を戒める。東の御方の並外れた美しさと大臣の心遣いに思いを巡らせ、あのような方と日々を過ごせたら命も延びようと思い続ける。
下の同じ枠で原文・発音の読み・現代語を一節ずつ確認できます。どの読み方から始めても読了を記録できます。
表示と音声の設定
現代語で読む
中将は、一晩じゅう荒い風の音を聞くうちにも、わけもなくしみじみとした気持ちになった。心にかけて恋しく思う人のことは後回しになり、先ほど目にした〔その方の〕お姿が忘れられないので、「これは、いったいどういう気持ちなのだろう。あってはならない思いまで生じてしまいそうだ。まったく恐ろしいことだ」と、〔夕霧は〕自分で気持ちを紛らわせ、別のことへ心を向けようとするけれど、それでもふと〔そのお姿が〕思い浮かんできて、
「これまでもこれから先も、めったにいないほど優れた方でいらっしゃったのだなあ。これほど〔睦まじい〕ご夫婦の間柄で、どうして東の御方は、あのような〔妾に等しい〕人数の一人として並んでいらっしゃったのだろう。〔そのお美しさは〕何にもたとえようがなかったのだ。ああ、お気の毒なことだ」と〔夕霧には〕感じられる。〔夕霧は〕大臣のご心遣いを、得がたいものだとあらためて知るのだった。
〔夕霧は〕性格がとても実直なので、〔ご自分には〕釣り合わないなどとは思いもしないけれど、「あのような方をこそ、どうせなら〔妻として〕迎えて、日々眺めて過ごしたい。限りがある命の残りも、今より少しはきっと延びるだろう」と、思い続けずにいられない。
底本:北村季吟編『湖月抄』延宝元年[1673]刊・国立国会図書館蔵 本別3-1 第28冊。本文画像:所蔵機関の公開資料。延宝元年(1673)刊『湖月抄』の大字本文を、国立国会図書館デジタルコレクションの原画像(IIIF)と照合した独自編集本文です。通行字体・現行仮名へ写し、濁点・句読点を補い、反復符を展開しています。発音の読みと独自訳を添え、補った主語などは〔 〕で示します。