第29帖 行幸 / 第13場面
唐衣の歌の応酬
あらすじ・人物・読み方
中宮をはじめ御方々から髪上げの装束や道具が届けられ、競い合う心遣いが見える。東の院の常陸の宮の御方からは、古風な心で形を整えた品々と、御小袿の袂に唐衣の歌が添えられていた。源氏はその震える筆跡に赤面しながらも気の毒がり、唐衣を繰り返す戯れ歌で返事を書く。紫の上は、その戯れを苦笑してたしなめる。
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現代語で読む
中宮から、白い御裳、唐衣、御装束、御髪上げの道具などが、たいそう比類なく立派で、例によって、壺の数々に唐の薫物を入れ、心を込めて香り深く調えて、献上なさった。
御方々は、皆それぞれ心々に、御装束や、人々の料(りょう)に、櫛や扇まで、取り取りに用意し出しなさるありさまは、劣ったり勝ったりもなく、さまざまにつけて、これほどのお心遣いの数々に競い尽くしておられるので、風情があると見えるのを、東の院の人々も、こうしたお急ぎはお聞きになるけれども、お見舞い申し上げるべき数ではないので、ただ聞き過ごしていたところ、常陸の宮の御方は、不思議と端正で、ふさわしい事の折を過ごさない古風なお心で、どうしてこのお急ぎを、よそのことと聞き過ごせようか、とお思いになって、形の通りの品々をこしらえ出しなさったのであった。
しみじみとしたお志であることよ。青鈍(あおにび)の細長一襲に、落栗とか、何とかといった、昔の人が愛用した袷の袴一揃え、紫の白霧の見える霰地の御小袿とを、良い衣筥(きぬばこ)に入れて、包みもたいそう端正にして、献上なさった。
お手紙には、
「お知らせいただくべき数でもございませんので、慎ましいことですが、こうした折は思いが堪えがたく存じます。これは、たいそう見苦しいものですが、人にもお与えください」
と、穏やかである。殿(源氏)は、それをご覧になるにつけ、たいそうあきれて、例の人だ、とお思いになると、お顔が赤くなった。
「不思議な古人であることよ。このように慎み深い人は、引き入り沈み入っているのがよいのだ。さすがに恥ずかしいことだ」と言って、「お返事はお遣わしください。みっともなく思いましょう。父親王が、たいそう可愛がっておられたのを思い出すと、人に落とすのはたいそう心苦しい人なのだ」
と申し上げなさる。御小袿の袂には、例によって、同じ筋の歌があった。
私の身こそ恨まれるのです。唐衣が、あなたの袂に馴れることがないと思うと。
お筆跡は、昔でさえ大概だったものを、たいそう始末しにくく縮み、彫り深く、強く、堅くお書きになっている。大臣は、憎らしく思いながらも、おかしさを堪えきれずに、
「この歌をお詠みになった時分こそ。まして今は力がなくて、所狭かったことでしょう」
と、気の毒がりなさる。
「まあ、このお返事は、騒がしくとも、私がしよう」
とおっしゃって、
「不思議と、人の思い寄らないお心遣いこそ、なくてもよいものだ」
と、憎らしさに書きなさって、
唐衣、また唐衣、唐衣。返す返すも唐衣であることよ。
と言って、
「たいそう真面目に、あの人が立てて好む筋合いなので、書いております」
と言って、お見せ申し上げなさると、君(紫の上)は、たいそう艶やかに笑いなさって、
「まあ、気の毒。戯れたようにもございますね」
と、苦しがりなさる。つまらないことがたいそう多いことよ。
底本:北村季吟編『湖月抄』延宝元年[1673]刊・国立国会図書館蔵 本別3-1 第29冊。本文画像:所蔵機関の公開資料。延宝元年(1673)刊『湖月抄』の大字本文を、国立国会図書館デジタルコレクションの原画像(IIIF)と照合した独自編集本文です。通行字体・現行仮名へ写し、濁点・句読点を補い、反復符を展開しています。発音の読みと独自訳を添え、補った主語などは〔 〕で示します。