第29帖 行幸 / 第14場面
内大臣との正式な対面
あらすじ・人物・読み方
内大臣は心待ちにして早く参り、儀式は限度を過ぎて珍しいほどに整えられる。亥の刻、玉鬘は御座へ入れられ、源氏の計らいで形ばかりの対面が進む。酒が回るうち、内大臣は長年忍び込められた恨みを口にし、沖の玉藻の歌を詠みかける。恥じらう玉鬘は源氏の助けで、渚の藻屑に身を託した返歌を返す。
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現代語で読む
内大臣は、それほど急がれなさるはずのないお心だけれど、珍しくお聞きになった後は、早く早くとお心にかかっていたので、早く参られなさった。
儀式などは、ふさわしい限度をさらに過ぎて、珍しい様子にしつらえさせなさった。「なるほど、わざわざお心を留めておられることだ」とご覧になるのも、畏れ多いながら、様子が変わってお思いになる。
亥の刻に、〔姫君を御座へ〕お入れ申し上げなさる。例のご準備は言うまでもなく、内のお座をたいそう比類なく設えさせなさって、お肴を差し上げなさる。お燈明は、例のこういう所よりは、少し光を増して、風情のあるほどにもてなし申し上げなさった。
たいそう見たく思い申し上げなさるけれど、今宵はたいそう思いがけないことなので、引き結びなさる(対面の)段になって、堪えきれないご様子である。
主人の大臣(源氏)は、
「今宵は、昔風のことは言い掛けておりませんので、何の文目(あやめ)もお分けなさるはずがございません。心を知らない人目を飾って、なお世の常の作法どおりに」
と申し上げなさる。
「なるほど、まったく申し上げやるべき言葉もございません」
お土器(酒)が回るうちに、
「限りない畏れ多いことを、世に例のないことと申し上げながら、今までこのように忍び込めさせなさった恨みも、どう加わりましょうか」
と申し上げなさる。
恨めしいことです。沖の玉藻を潜ってまで磯に隠れていた海人(あま)の心は。
と言って、やはり包みきれずにしおれて(涙ぐんで)おられた。姫君は、たいそう恥ずかしい方々のお顔ぶれが集まり、慎ましさに、申し上げることがおできにならないので、殿(源氏)は、
寄る辺もなく、このような渚に打ち寄せられて、海人(あま)も尋ねない藻屑と見られてきました。たいそう無理なお申し出でございます」
と申し上げなさると、
「たいそうごもっともなことです」
と、申し上げる方法もなくて、お出ましになった。
底本:北村季吟編『湖月抄』延宝元年[1673]刊・国立国会図書館蔵 本別3-1 第29冊。本文画像:所蔵機関の公開資料。延宝元年(1673)刊『湖月抄』の大字本文を、国立国会図書館デジタルコレクションの原画像(IIIF)と照合した独自編集本文です。通行字体・現行仮名へ写し、濁点・句読点を補い、反復符を展開しています。発音の読みと独自訳を添え、補った主語などは〔 〕で示します。