第30帖 藤袴 / 第3場面
喪服をめぐる対話
あらすじ・人物・読み方
夕霧は源氏の伝言を取り次ぐうち、喪服の始末に話を寄せ、亡き母の形見ともいうべき喪の色に託して、秘めた思慕をほのめかす。玉鬘はしんみりと応じる。
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現代語で読む
お返事は、落ち着いたものでありながら、たいそう感じよく申し上げなさる様子が、洗練されて親しみ深いにつけても、あの野分の朝のお顔は、心にかかって恋しいのを、具合の悪い筋合いと思っていたが、〔事情を〕聞いてはっきりさせた後は、やはりよそよそしい気持ちが加わって、
「この宮仕えを、大ざっぱに思い捨てはなさるまい。あれほど見どころのある方々のお間柄で、風情ある様子のことの煩わしさは、また、必ず出てくるでしょうに」
と思うと、ただならず、胸が塞がる心地がするけれど、素知らぬふうにきっぱりとしていて、
「人に聞かせてはならないと存じていたことを申し上げさせていただくのに、どうございましょうか」
と様子をうかがうと、近くに控える人も、少し退きながら、御几帳の後ろなどに身を寄せ合っていた。
それらしい口実を次々と取り続けて、細やかに申し上げなさる。主上〔帝〕のご様子のただならぬ筋合いを、そのようなお心をお持ちください、といったような筋合いである。お返事申し上げなさる言葉もなくて、ただ嘆いていらっしゃるほどに、ひっそりと、美しくたいそう親しみ深いので、やはり堪えきれず、
「ご喪服も、今月にはお脱ぎになるはずなのに、日並みがよろしくなかったのです。十三日に、河原へお出ましになるはずとの仰せでした。私もお供に伺うべきものと思っております」
と申し上げなさると、
「ご一緒申し上げるのも大げさなようにございましょう。ひっそりと〔お出ましになる〕のがよろしいでしょう」
とおっしゃる。このご喪服などの詳しい事情を、人に広く知らせまいとお考えの様子は、たいそうご配慮がある。中将〔夕霧〕も、
「漏らすまいと、お包み隠しなさることこそ、情けないことです。堪えがたく思いなさる形見であるので、脱ぎ捨てますことも、たいそう辛くございますのに。それにしても、不思議と〔喪の色を〕手放さないことが、また理解しがたいことでございます。このあらわし衣〔喪服〕の色がなければ、〔あなたをほかの方々と〕思い分け申し上げることはできなかったでしょう」
とおっしゃると、
「何ごとも思い分けられない心には、ましてどうとも思い迷い申し上げられませんけれど、こうした色こそ、不思議と物哀しいものでございます」
と言って、普段よりもしっとりとしたご様子は、たいそう愛らしく趣がある。
底本:北村季吟編『湖月抄』延宝元年[1673]刊・国立国会図書館蔵 本別3-1 第30冊。本文画像:所蔵機関の公開資料。延宝元年(1673)刊『湖月抄』の大字本文を、国立国会図書館デジタルコレクションの原画像(IIIF)と照合した独自編集本文です。通行字体・現行仮名へ写し、濁点・句読点を補い、反復符を展開しています。発音の読みと独自訳を添え、補った主語などは〔 〕で示します。