第30帖 藤袴 / 第4場面
藤袴の贈答
あらすじ・人物・読み方
夕霧は蘭の花に藤袴の歌を添えて御簾の端から差し出し、玉鬘も返歌で応える。夕霧は頭中将・柏木の思いにも触れて訴えるが、玉鬘は気分が悪いと言って奥へ引き下がる。
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現代語で読む
こうした折にとでも思い寄ったのだろうか、蘭の花のたいそう趣のあるのをお持ちになっていたのを、御簾の端から差し入れて、
「これもご覧になるべき理由がありました」
と言って、すぐには〔花を〕お放しにならずお持ちになっているので、何のことかとも思わずにお受け取りになる〔玉鬘の〕御袖を、〔夕霧は〕引き動かした。
同じ野の露にしおれる藤袴よ、せめて言い訳ほどにでも情けをかけてください。
「〔これは〕ゆかりの深いものだ」とかいうことで、たいそう不快で困ったことになったけれど、知らないふうに、そっと〔奥へ〕引き入って、
お尋ねになるのが、はるか遠い野辺の露であるなら、薄紫が言い訳にもなったでしょうが(そうではありません)。このように申し上げる以上に、深いわけがどうしてありましょうか」
とおっしゃると、〔夕霧は〕少し微笑んで、
「浅いも深いも、お分かりになる方はいらっしゃるだろうと思っております。まじめな話としては、たいそう恐れ多い筋合いだと承知しながら、抑えきれない心の内を、どうしてお分かりいただけましょうか。かえってお疎んじになるのがつらいので、ひどく〔心に〕秘めておりましたのに、今となってはもう同じことだと、思い悩んでおります。
頭中将の様子はご覧になってご存じでしたか。他人のこととして、何と思っておりましたでしょう。自分の身になってこそ、たいそうおこがましくもあり、また思い知らされました。かえって、あの君〔頭中将〕は思いを募らせて、ついには、おそばを離れまいという頼みにして、思いを慰めている様子などを見ますのも、たいそう羨ましく妬ましいので、せめて情け深く思ってください」
など、細かに申し上げてお知らせになることは多いけれど、傍らで聞くのも痛々しいので書かない。
尚侍の君〔玉鬘〕は、次第に奥へ引き入りながら、煩わしくお思いになったので、
「情けないご様子ですね。過ちをすまいという心のほどは、自然とご覧になってお分かりになることもあるでしょうに」
と言って、こうした折に、もう少し〔思いを〕漏らしたいけれど、
「変に具合が悪くて」
と言って、すっかり奥へ入ってしまわれたので、〔夕霧は〕たいそうひどく嘆いてお立ちになった。
底本:北村季吟編『湖月抄』延宝元年[1673]刊・国立国会図書館蔵 本別3-1 第30冊。本文画像:所蔵機関の公開資料。延宝元年(1673)刊『湖月抄』の大字本文を、国立国会図書館デジタルコレクションの原画像(IIIF)と照合した独自編集本文です。通行字体・現行仮名へ写し、濁点・句読点を補い、反復符を展開しています。発音の読みと独自訳を添え、補った主語などは〔 〕で示します。