第31帖 真木柱 / 第12場面
姫君との面会
あらすじ・人物・読み方
大将は北の方が宮邸へ移ったと聞いて思い乱れ、玉鬘にほのめかして宮邸を訪れる。姫君の真木柱の歌を見て涙をこぼし、木工の君に諌められながらも姫君には会えず、男君たちと語らって帰る。玉鬘の見事な様子に比べ、北の方のひねくれた様子を思い、万事慰められる。
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現代語で読む
大将の君〔鬚黒〕は、〔北の方が宮邸へ〕このようにお移りになったのを聞いて、
「たいそう妙なことに、若々しい夫婦仲のように、燻んだ顔をして〔不機嫌に〕いらしたことだなあ。正妻〔北の方〕本人は、そんなにひっきりなしに際立った〔嫉妬の〕心もない人なのに、宮がこのように軽々しくていらっしゃる」
と思って、子供たちもいて、人目も気の毒なことに、思い乱れて、尚侍の君〔玉鬘〕に、
「このような妙なことがございます。かえって安心してはお思いにならないでしょうが、そのまま片隅に隠れていてもいられそうな人の安心を、穏やかにお思いになっていたのに、急にあの宮〔邸へ北の方が〕いらっしゃるのだそうです。人が聞いたり見たりすることも情けないので、それとなくほのめかして、〔宮邸へ〕参上して来ましょう」
と言ってお出かけになる。
上等な表衣、柳色の下襲、青鈍色の綺の指貫をお召しになって、身なりを整えていらっしゃるのは、たいそう重々しい。「どうして似合わないことがあろうか」と、人々は拝見するが、尚侍の君は、このようなことどもをお聞きになるにつけても、我が身が好ましくなく思われなさるので、目も向けなさらない。
宮に恨みを申し上げようと、参上なさるそのままに、まず、〔大将の〕邸においでになったところ、木工の君などが出て来て、〔移転の〕あった様子を語り申し上げる。姫君のご様子をお聞きになって、男らしくこらえなさるが、ほろほろと〔涙が〕こぼれるご様子は、たいそう痛ましい。
「それにしても、世の人とも似ず、妙なことどもを見過ごしてきた長年の〔私の〕志を、〔あの方は〕ご存じなくていらしたことだなあ。たいそう思いのままになる〔身分の〕人は、今までも〔ここに〕留まっていられるはずがあろうか。まあよい、あの正妻は、どう転んでも、むなしい人と見えなさるのだから、同じことだ。幼い人々〔子供たち〕も、どのようにお世話なさろうとするのだろう」
と、嘆きながら、あの真木柱をご覧になると、〔姫君の〕筆跡も幼いけれど、心根がしみじみと恋しいままに、道々涙を拭いながら参上なさったので、〔宮と〕対面なさることもできない。
「何を〔今さら〕。ただ時とともに移る心が、今初めて変わりなさるのでもありません。長年思い浮かれていらっしゃる様子は、聞き続けてからも久しくなったのに、どこをまた思い直すべき時とお待ちになるのでしょうか。ますますひねくれた様子にばかり見え終わりなさるでしょう」
と〔木工の君が大将を〕諌め申し上げなさるのは、もっともなことである。
「たいそう、若々しい気持ちもいたしますなあ。お捨てになるべきでない人々もございますのでと、のんきに思っておりました心の油断を、繰り返し申し上げても仕方がありません。今はただ、穏やかにお見許しになって、罪を逃れる余地もなく、世間の人にも事情を分かってもらってこそ、このようにもお扱いなさるでしょう」
などと、申し上げかねていらっしゃる。「姫君をだけでも拝見したい」と申し上げなさるが、〔姫君を〕お出し申し上げることもできない。
男君たちは、十歳になる子は、殿上〔の間〕に上がっていらっしゃる。たいそう可愛らしい。人に褒められて、容貌などは格別ではないけれど、たいそうしっかりしていて、物の心をだんだんとお分かりになっている。
次の君は、八歳ばかりで、たいそう可愛らしく、姫君にも似ていらっしゃるので、〔大将は〕抱き撫でながら、
「この子をこそ、恋しい〔姫君の〕形見として見るべきなのでしょう」
などと、泣きながら語らいなさる。宮にも、ご意向を伺わせなさるが、
「風邪をひいて、ためらっております折でして」
というご返事なので、〔大将は〕きまり悪くお出になった。
小君たちを車に乗せて、語らっていらっしゃる。六条殿〔玉鬘のもと〕へは、連れて行くことがおできにならないので、〔自分の〕邸に留めて、
「やはり、ここにいなさい。〔私が〕来て見るのにも安心できるように」
とおっしゃる。〔小君たちは〕物思いに沈んで、たいそう心細げに見送っている様子どもは、たいそう痛ましいので、〔大将は〕物思いが加わる気持ちがするけれど、女君〔玉鬘〕のご様子が、見る甲斐があって見事なのと、〔北の方の〕ひねくれたご様子と思い比べるのにも、格段の差があって、万事を慰めなさる。
底本:北村季吟編『湖月抄』延宝元年[1673]刊・国立国会図書館蔵 本別3-1 第31冊。本文画像:所蔵機関の公開資料。延宝元年(1673)刊『湖月抄』の大字本文を、国立国会図書館デジタルコレクションの原画像(IIIF)と照合した独自編集本文です。通行字体・現行仮名へ写し、濁点・句読点を補い、反復符を展開しています。発音の読みと独自訳を添え、補った主語などは〔 〕で示します。