第31帖 真木柱 / 第13場面
尚侍の参内と男踏歌
あらすじ・人物・読み方
大将が訪れなくなったことを宮邸では嘆き、紫の上も恨まれる原因になることを苦しむが、源氏は人の仲は隠せないものだと慰める。大将は思い返して年が改まってから玉鬘を尚侍として参内させ、男踏歌の夜、承香殿の東面に局が定まる。内裏は華やかに賑わい、玉鬘の局の袖口は他の御方々よりも格別に華やかであった。
下の同じ枠で原文・発音の読み・現代語を一節ずつ確認できます。どの読み方から始めても読了を記録できます。
表示と音声の設定
現代語で読む
〔大将は〕すっかり絶えて訪れもせず、きまり悪かったことに託けた顔をしているのを、宮〔邸〕では、たいそう目に余るとお嘆きになる。
春の上〔紫の上〕もお聞きになって、
「ここ〔六条院〕にまで、恨まれる原因になるのがつらいこと」
とお嘆きになるのを、大臣の君〔源氏〕は、気の毒にお思いになって、
「難しいことだ。自分の心一つにもよらない人の縁によって、帝に対しても気が置ける様子にお思いになったようだ。兵部卿宮なども、お恨みなさると聞いていたが、そうは言っても、思いやりの深くいらっしゃる方で、〔事情を〕聞いて納得し、恨みが解けなさったようだ。自然と人の仲というものは、秘めるべきことと思うけれど、隠しようのないものだから、そう思われる罪もない、とそう思います」
とおっしゃる。
このようなことどもの騒ぎで、尚侍の君のご様子に、ますます晴れ間がないのを、大将は、気の毒と思いお世話申し上げて、
「この〔尚侍としての〕参内なさろうとしていたことも、すっかり絶えてしまい、〔私が〕お妨げ申し上げたのを、帝も、侮る心がある様子にお聞きになり、人々も思い当たるところがあるでしょう。公の人を頼りにした人がいないことがあろうか」
と思い返して、年が改まって、〔玉鬘を〕参内させ申し上げなさる。男踏歌があったので、そのままその頃に、儀式はたいそう今風に華やかに、比類なく〔玉鬘は〕参内なさる。
方々の大臣たちは、この大将のご威勢までも相まって、宰相中将は、ねんごろに心を配り申し上げなさる。兄弟の君たちも、こうした折にと集まり、追従して近寄り、お世話なさる様子は、たいそう見事である。
〔玉鬘は〕承香殿の東面に局を構えた。西に宮の女御〔弘徽殿〕がいらっしゃるので、馬道ほどの隔たりであるのに、お心のうちは、遠く隔たっていたのだろうよ。御方々は、いずれも劣らず競い合いなさって、内裏一帯は、憎らしくも趣深い頃合いである。特に騒々しい更衣たちは、大勢はお仕えしていない。
中宮、弘徽殿女御、この宮の女御、左の大殿の女御などがお仕えなさる。そのほか、中納言、宰相の御女が二人ばかりお仕えしていたのであった。
踏歌は、方々に里人が参り、様子も格別に、実に賑やかな見物なので、誰も彼も美しさを尽くし、袖口の重なり具合を、仰々しく見事に整えなさる。春宮の女御も、たいそう華やかにお取り計らいになって、宮〔春宮〕は、まだ若くいらっしゃるけれど、すべてたいそう今風である。
御前、中宮の御方、朱雀院へと参って、夜がひどく更けてしまったので、六条の院へは、この度は場所が手狭だと〔挨拶を〕省きなさる。朱雀院からお帰りになって、春宮の御方々を巡るうちに、夜が明けてしまった。
ほのぼのと趣深い明け方に、ひどく酔い乱れた様子をして、「竹河」を謡っていたほどをご覧になると、内の大殿の君たちは、四、五人ばかり、殿上人の中に、声が優れ、容貌も清らかで、続いていらっしゃるのは、たいそう見事である。
童である八郎君は、向かい腹〔異母〕で、たいそう大切にされなさるが、たいそう可愛らしくて、大将殿の太郎君と立ち並んでいるのを、尚侍の君も、他人とはご覧にならないので、お目に留まった。高貴で交わりに馴れていらっしゃる御方々よりも、この〔玉鬘の〕御局の袖口は、全体の雰囲気が今風で、同じ物の色合い、襲の色目であっても、他の物より格別に華やかである。
〔玉鬘〕本人も女房たちも、このようにお心を慰めて、しばらくはお過ごしになるだろう、と思い合っていた。
底本:北村季吟編『湖月抄』延宝元年[1673]刊・国立国会図書館蔵 本別3-1 第31冊。本文画像:所蔵機関の公開資料。延宝元年(1673)刊『湖月抄』の大字本文を、国立国会図書館デジタルコレクションの原画像(IIIF)と照合した独自編集本文です。通行字体・現行仮名へ写し、濁点・句読点を補い、反復符を展開しています。発音の読みと独自訳を添え、補った主語などは〔 〕で示します。