第31帖 真木柱 / 第15場面
自邸への迎え
あらすじ・人物・読み方
その夜、鬚黒の大将は玉鬘を自邸に迎え入れる。父の内大臣も表向きは了承するが、源氏はゆくりない迎えを不本意に思い、宮邸に残された帝の玉鬘への執心も気がかりにされる。
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現代語で読む
そのまま今夜、〔大将は〕あの邸へ〔玉鬘を迎えよう〕と思い承っていたが、前もっては許しが出そうにないので、〔事前に〕お知らせ申し上げず、
「急にひどく風邪気味で苦しいので、気安い所で少し休んでおります間、よそに離れていてはたいそう心配でございましょうから」
と、穏やかに申し上げなさって、そのまま〔玉鬘を自邸へ〕お移し申し上げる。
父の大臣〔内大臣〕は、急なことに、「儀式を欠いたようではないか」とお思いになるが、「無理に、あれほどのことを言って妨げるのも、人の心を損ねよう」とお思いになるので、
「ともかくも。もともと進退の自由のきかない人のご事なのですから」
と、申し上げなさったのであった。
六条殿〔源氏〕は、「たいそう突然で不本意だ」とお思いになるが、どうしようもない。女〔玉鬘〕も、塩を焼く煙がなびいていた方を、あきれたこととお思いになりながらも、盗んで連れて行かれたのだったらと思い比べなさって、たいそううれしく気持ちが落ち着いた。
あの、〔帝が〕お入りになっていたことを、〔帝が〕ひどくお恨み申し上げなさるのも、〔源氏には〕好ましくなく、よそよそしい気持ちがして、世間並み以上に心の解けないお扱いで、ますますご様子が悪い。
あの宮〔冷泉帝〕に対しても、あれほど強くおっしゃっていたのに、〔源氏は〕たいそう思い悩みなさるが、〔帝は〕まったくお訪ねにならない。ただ思いがかなった〔大将の〕お世話に、〔玉鬘は〕明け暮れ心を配ってお過ごしになる。
二月にもなった。大殿〔源氏〕は、
「それにしても、つれない仕打ちだな。これほど際立って〔冷たく〕しようとは思わず、油断させられた悔しさを」と、体裁悪く、すべてお心にかからない時がなく、恋しく思い出されなさる。
「前世からの因縁などというものは、おろそかにできないことだが、自分の度を越した心のせいで、こうして人のせいにできない思いをするのだなあ」
と、起きても寝ても〔玉鬘の〕面影が見えなさる。
底本:北村季吟編『湖月抄』延宝元年[1673]刊・国立国会図書館蔵 本別3-1 第31冊。本文画像:所蔵機関の公開資料。延宝元年(1673)刊『湖月抄』の大字本文を、国立国会図書館デジタルコレクションの原画像(IIIF)と照合した独自編集本文です。通行字体・現行仮名へ写し、濁点・句読点を補い、反復符を展開しています。発音の読みと独自訳を添え、補った主語などは〔 〕で示します。