第31帖 真木柱 / 第18場面
若君の誕生
あらすじ・人物・読み方
もとの北の方は、月日が隔たるにつれ思い沈み、ますますぼんやりとして過ごす。その年の十一月、玉鬘が愛らしい若君を出産し、大将は限りなく喜んで大切に育てる。
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現代語で読む
あの、もとの北の方〔式部卿宮の御女〕は、月日が隔たるにつれて、あきれたことと、物思いに沈み、ますますぼんやりとしてお過ごしになる。大将殿の全般的なお見舞いは、何事も詳しく心配りなさっていて、君達〔北の方の子たち〕を、変わらず大切に思い育てなさるので、まったく疎遠にはなさらず、実務的な面での頼りは、以前と同じでいらしたのであった。
姫君を、堪えがたく恋しく思い申し上げなさるが、〔北の方は〕まったくお見せ申し上げなさらない。若いお心のうちで、この父君を、誰も彼も、許しがたくお恨み申し上げて、ますます隔てていらっしゃることばかりが増すので、心細く悲しいところに、男君たちは、いつも参って慣れ親しみながら、尚侍の君〔玉鬘〕のご様子なども、自然と折に触れて話して、
「私たちをも、かわいらしく懐かしくしてくださる。明け暮れおもしろいことを好んでいらっしゃる」
などと言うので、うらやましく、このようにしてでも安らかに振る舞える身ではなかっただろうことを嘆きなさる。不思議に、男女を問わず、人に物思いをさせる尚侍の君でいらしたのである。
その年の十一月に、たいそう愛らしい赤子までも抱き出しなさったので、大将も、思いのままにめでたいことと、大切にお育てになることは、限りがない。その頃の様子は、言わなくても推し量るべきことであるよ。父の大臣〔内大臣〕も、自然と思いのままになるご宿世だとお思いになっていた。
わざわざ大切に育てられる君達にも、ご容貌などはお劣りにならない。頭中将も、この尚侍の君を、たいそう懐かしい姉妹として、親しくし申し上げなさるものの、さすがといったご様子を交えながら、
「宮仕えに、甲斐があっていらしただろうものを」
と、この若君の愛らしさにつけても、
「今まで皇子たちがいらっしゃらない嘆きを拝見するのに、どれほど面目が立っただろう」
と、言い過ぎのことを思っておっしゃる。
公務は、あるべき様子に心得などしながら、参内なさることも、そのままこうして止んでしまいそうである。それももっともなことであるよ。
底本:北村季吟編『湖月抄』延宝元年[1673]刊・国立国会図書館蔵 本別3-1 第31冊。本文画像:所蔵機関の公開資料。延宝元年(1673)刊『湖月抄』の大字本文を、国立国会図書館デジタルコレクションの原画像(IIIF)と照合した独自編集本文です。通行字体・現行仮名へ写し、濁点・句読点を補い、反復符を展開しています。発音の読みと独自訳を添え、補った主語などは〔 〕で示します。