ATAWI 古典文学JAPANESE CLASSICS, AT YOUR PACE

第31帖 真木柱 / 第8場面

木工の君との贈答

あらすじ・人物・読み方

北の方の修法が始まる中、大将は焦げた衣を着替えて身づくろいをし、出かける支度をする。薫物を焚く木工の君が炎の歌で秘めた思いをほのめかすと、大将は煙の歌で応じるが、その受け止め方は冷ややかである。

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北の方は、依然としてとても苦しそうになさっているので、〔大将は〕御修法などを始めさせなさる。心の中でも、「この頃だけでも、無事に、正気でいらっしゃいますように」とお祈りなさる。「本当に心根の哀れなのを知らないのなら、ここまで思い過ごすはずもない疎ましさだな」と、お思いになっていた。

日が暮れると、例によって、急いでお出かけになる。お装束のことなども、見苦しくなく整えなさることもなく、ひどく見苦しく、ちぐはぐな様子ばかりでむっとしなさっているのを、鮮やかな御直衣なども、取りそろえなさることもできず、とても見苦しい。

昨夜の〔着物〕は、焼け焦げて、嫌な感じに焦げた匂いなども、異常である。お着物に移り香も染み込んでいる。燻べられたことが露わなほどで、人もお倦みになってしまいそうなので、〔着物を〕脱ぎ替えて、御湯殿などで、ひどく身づくろいなさる。

木工の君は、御薫物を焚きながら、独りいて焦がれる胸の苦しさのあまり、思い余る炎と見えたことです。情け容赦ないおもてなしは、拝見する者でさえ、ただではいられましょうか」と、口を覆って座っている、眼差しが、とても痛々しい。けれども、「どんな心で、このような人に物を言ったのだろう」などとばかりお思いになるのだった。情けのないことよ。

辛いことを思い騒げば、さまざまな煙がくゆってますます立ち上ることです。とんでもないことなどが、もし〔北の方に〕聞かれたら、板挟みになってしまう身のようです」と、嘆きながら出てお行きになった。

底本:北村季吟編『湖月抄』延宝元年[1673]刊・国立国会図書館蔵 本別3-1 第31冊。本文画像:所蔵機関の公開資料。延宝元年(1673)刊『湖月抄』の大字本文を、国立国会図書館デジタルコレクションの原画像(IIIF)と照合した独自編集本文です。通行字体・現行仮名へ写し、濁点・句読点を補い、反復符を展開しています。発音の読みと独自訳を添え、補った主語などは〔 〕で示します。