ATAWI 古典文学JAPANESE CLASSICS, AT YOUR PACE

第35帖 若菜下 / 第16場面

蓮の歌

あらすじ・人物・読み方

病に沈む女三の宮を源氏が見舞い、池の蓮を前に歌を交わす。源氏は二、三日逗留し、宮の懐妊を疑いながらもいじらしい様子を見守る。

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現代語で読む

女三の宮は、あの怪しい出来事を嘆いて以来、すっかり普段のご様子でもなく、苦しそうにされるが激しくはないものの、月が改まってからは食事も召し上がらず、ひどく青ざめて衰えていらっしゃる。

柏木は、どうにも思い余る折々は夢のように宮をお見かけしたけれど、宮は尽きることなく辛いこととお思いだった。院〔源氏〕をたいそう恐れていらっしゃるお気持ちからすれば、〔柏木の〕身の程も人柄も釣り合うはずもなく、たいそう風流ぶって艶めいているので、世間一般の目には並の人より優れて立派に見えても、幼い頃から比べものにならない〔源氏の〕ご様子に慣れていらっしゃる宮のお心には、目障りにばかりお見えになるうちに、このようにずっと悩んでいらっしゃるのは、痛ましいご宿命であったのだ。

乳母たちは〔宮を〕お見申し上げて〔源氏を〕とがめ、院がお越しになることもたいそう稀になったのを、ぶつぶつ恨み申し上げる。

〔源氏は〕このように悩んでいるとお聞きになって、お越しになる。女君〔女三の宮〕は、暑くてむさ苦しいといって髪を洗い清め、少しさっぱりした様子でいらっしゃった。横になったまま髪を放っておかれたので、すぐには乾かず、わずかに湿って、乱れる筋もなく、たいそう清らかにゆらゆらとして、青ざめて衰えていらっしゃるのに、色は真っ青に白く美しげで、透けるように見えるお肌の様子など、この世にないほどいじらしい。抜け殻の虫の殻のように、まだたいそう頼りなげでいらっしゃる。

長年お住まいにならず少し荒れていた院の中が、比べようもなく狭くさえ見える。昨日今日このように物思いなさる間に、特に心をかけて整えられた遣水や前栽が、急に心地よげに見えるのを外に眺め出しても、しみじみと、今まで月日が経ってしまったことをお思いになる。

池はたいそう涼しげで、蓮の花が咲き渡っているところに、葉はたいそう青々として、露がきらきらと玉のように見え渡るのを、

「あれをご覧なさい。〔蓮は〕私一人でも涼しげなことよ」

とおっしゃると、〔宮が〕起き上がって外を眺め出されるのも、たいそう珍しいので、

「こうしてお目にかかるのは、夢のような心地です。ひどく、自分の身さえ最期かと思われる折々がありましたのに」

と、涙を浮かべておっしゃると、〔源氏も〕ご自身もしみじみとお思いになって、

〔このまま〕消え止まるまでどれほど時が経つのでしょう、たまさかに蓮の露がかかっている間だというのに。

とおっしゃる。

来世でも契っておきましょう、この世でなくとも。蓮の葉に玉のように宿る露のように、心を隔てないでください。

お出になる方向は気が進まないけれど、内裏にも朱雀院にもお耳に入る向きがあり、〔宮が〕悩んでいると聞いても月日が経ってしまったのを、目の近いところに心を惑わしていた間、お目にかかることもほとんどなかったのに、このような雲の間にまで引き籠もるのかと、お思い立って、お越しになった。

宮は、心の鬼のせいで、〔源氏に〕お目にかかるのも恥ずかしく、気が引けてお思いになるので、何か申し上げるお返事もなさらないのを、長日の積もりで、さすがに何気なく冷たいと〔源氏が〕お思いになったかと、心苦しいので、あれこれ取り繕って申し上げなさる。年配の人を召して、ご体調の様子などを〔源氏が〕お尋ねになる。

「普段とは違うご体調でいらっしゃいます」

と、患っていらっしゃるご様子を申し上げる。

「不思議なことだ。月日が経って珍しいご懐妊でも」

とだけおっしゃって、心の中では、

「長年連れ添った人々でさえそんなことはないのに、不確かなおめでたなのだろうか」

とお思いになるので、特にどうこうおっしゃってお世話もなさらず、ただ、悩んでいらっしゃる様子がたいそういじらしいのを、しみじみとご覧になる。

ようやくお思い立ってお越しになったので、すぐにはお帰りにならず、二、三日いらっしゃる間、「どうだろう、どうだろう」と〔二条院の紫の上が〕気がかりにお思いになるので、手紙ばかりを書き尽くしていらっしゃる。

「いつの間に積もる言葉の葉なのでしょう。ああ、心安らかでない世を見ることよ」

と、若君〔女三の宮〕の過ちを知らない人は言う。小侍従は、このようなことにつけても胸が騒ぐのであった。

底本:北村季吟編『湖月抄』延宝元年[1673]刊・国立国会図書館蔵 本別3-1 第35冊。本文画像:所蔵機関の公開資料。延宝元年(1673)刊『湖月抄』の大字本文を、国立国会図書館デジタルコレクションの原画像(IIIF)と照合した独自編集本文です。通行字体・現行仮名へ写し、濁点・句読点を補い、反復符を展開しています。発音の読みと独自訳を添え、補った主語などは〔 〕で示します。