ATAWI 古典文学JAPANESE CLASSICS, AT YOUR PACE

第35帖 若菜下 / 第20場面

玉鬘の出家

あらすじ・人物・読み方

玉鬘がついに出家した知らせを聞いた源氏は、須磨の昔を詠んだ歌を贈って後れを詫びる。玉鬘も明石の昔を詠んで返し、源氏は紫の上に、娘を育てる難しさや若宮の養育を語り、玉鬘のための法服や尼の道具を忍んで調えさせる。

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現代語で読む

二条の尚侍の君〔玉鬘〕のことを、〔源氏は〕なお絶えず思い出し申し上げていらっしゃるが、このように気がかりな筋のことを、つらいものとお分かりになって、あの方の心の弱さも、少し軽く思うようになっていらっしゃった。

ついにご本意〔出家〕を遂げなさったとお聞きになっては、たいそうしみじみと残念で、心が動いて、まずお便りを差し上げなさる。今〔出家する〕とさえほのめかしなさらなかったつらさを、深くお訴え申し上げなさる。

海人の世を他人事のように聞けましょうか。須磨の浦で藻塩を垂らしたのも、ほかならぬ私なのですから。さまざまな世の無常を心に思いつめ、今までお便りが遅れた残念さを、お忘れになるとしても、避けがたいご回向のうちには、まず〔私を〕と、しみじみと〔書いてある〕。

などと、多く申し上げていらっしゃった。

〔玉鬘は〕早くから思い立っていたことだが、この〔源氏の〕ご妨げに煩わされて、人にははっきり表しなさらなかったことだが、心のうちしみじみと、昔からつらいご縁を、さすがに浅くも思い知らずにはいられないなど、あれこれ思い出されなさる。

お返事は、今はこのようにも通うはずのないお手紙の最後と思いなさるので、しみじみとして、心を込めてお書きになる、墨のつき具合など、たいそう趣がある。

「無常な世とは自分の身一つについてだけ知っておりましたが、〔私が〕遅れたとおっしゃったことで、なるほど、海人の舟にどうして思い遅れたのでしょう。明石の浦で漁をしていたあなた〔源氏〕に。回向には、広くどの門でも、どうして〔漏らしましょう〕」

とある。濃い青鈍の紙で、樒に挿しなさっているのは、いつものことだが、たいそう凝った筆遣いが、なお古びず趣がある。

〔源氏が〕二条院にいらっしゃる時で、女君〔紫の上〕にも、今はまったく途絶えてしまったこととして、お見せ申し上げなさる。

「たいそうひどく恥をかかされたことだ。本当に、不快なことだ。さまざまな心細い世の中の有様を、よく見過ごしてきたようなものだよ。世間並みのことでも、はかなく言葉を交わし、折々に寄せて、しみじみとした情趣も分かり、故事をも外さず、よそながらに親しく交わるべき人は、斎院とこの君〔玉鬘〕だけが残っていたのに、このようにみな背き果てて、斎院もまた、熱心に勤めて、ひたすら修行に没頭なさってしまったそうだ。

やはり、多くの人の有様を聞き見る中で、深く思う様子で、さすがに慕わしいことが、あの人〔亡き人〕にお比べすることさえできなかったのだなあ。女子を育て上げることは、たいそう難しいことだったのだなあ。

宿世などというものは、目に見えないもので、親の心に任せられない。育ち盛りの間の心遣いは、やはり力を入れるべきようだ。よくぞ、多くの方々に心を乱すまいという縁であったものだ。年を重ねて〔玉鬘が〕来なかった間は、退屈なことや、さまざまに見たかったらと、嘆かわしい折々があった。

若宮を、心を込めてお育て申し上げなさい。女御〔明石の姫君〕は、物の心を深くお分かりになるほどでもなく、このように暇のない交際をなさるので、何事も気がかりな方でいらっしゃるのだろう。御子たちには、やはり飽くまで人に付け入られないようにして、世をのどかに過ごしなさるのに、気がかりでない心構えを、付けさせたいものだった。限りがあって、あれこれの後見を設ける普通の人は、おのずとそれにも助けられるのに」

などと申し上げなさると、

「しっかりした様子のご後見でなくとも、生き長らえる限りは、お世話申し上げないことはないと思うのですが、どうでしょう」

と言って、なお何となく心細げで、このように心のままに、修行をも滞りなくする人々を、うらやましく思い申し上げていらっしゃった。

「尚侍の君に、様子が変わりなさった装束など、まだ裁ち慣れない間はお届けすべきだが、袈裟などはどのように縫うものか。それを〔こちらで〕おさせなさい。一領は、六条の東の君〔花散里〕に縫わせよう。きちんとした法服らしくしては、かえって見た目も疎ましくなるだろう。さすがに、その心遣いを見せて〔お縫いなさい〕」

などと申し上げなさる。

青鈍の一領を、ここ〔二条院〕でお縫わせになる。作物所の人を呼んで、ひそかに、尼のご道具のしかるべき始めをお与えになる。御茵、上席、屏風、几帳などのことも、たいそうひそかに、わざとらしく急がせなさった。

底本:北村季吟編『湖月抄』延宝元年[1673]刊・国立国会図書館蔵 本別3-1 第35冊。本文画像:所蔵機関の公開資料。延宝元年(1673)刊『湖月抄』の大字本文を、国立国会図書館デジタルコレクションの原画像(IIIF)と照合した独自編集本文です。通行字体・現行仮名へ写し、濁点・句読点を補い、反復符を展開しています。発音の読みと独自訳を添え、補った主語などは〔 〕で示します。