ATAWI 古典文学JAPANESE CLASSICS, AT YOUR PACE

第36帖 柏木 / 第15場面

女二の宮への訪問

あらすじ・人物・読み方

夕霧は柏木の未亡人である女二の宮の一条の宮を訪ね、柏木と楓の枝に寄せて歌を詠みかける。宮付きの少将の君が返歌でやんわりと受け流すと、夕霧はもっともだと少し微笑む。

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現代語で読む

〔夕霧は〕あの一条の宮〔女二の宮のお住まい〕にも、常にご訪問申し上げなさる。四月ごろの卯の花は、なんとなく気持ちよさそうに、一色に四方の梢も趣深く見渡されるのに、物思いに沈む〔宮の〕お住まいは、何事につけても静かに心細く、日を暮らしあぐねていらっしゃるところへ、〔夕霧が〕例によってお渡りになった。

庭もだんだん青み出てきた若草が見渡され、あちこち砂子が薄い物の陰の方では、蓬も得意顔である。〔柏木が〕前栽に心を入れて手入れなさっていたのも、〔今は〕心のままに茂り合い、一叢の薄も頼もしげに広がって、虫の音が添うだろう秋が思いやられるにつけ、とてもしみじみと露っぽくて、〔夕霧は〕分け入っていらっしゃる。

伊予簾を掛け渡して、鈍色の几帳の衣替えをした透け影が涼しげに見えて、器量のよい童女の、細やかに鈍色に染めた汗衫の褄や髪形などがほのかに見えるのは趣があるけれど、やはり目が驚かされる〔喪の〕色であることよ。

今日は〔宮が〕簀子にいらっしゃるので、〔女房が〕茵を差し出した。「とても薄手のお席ですね」と言って、いつものように、御息所〔柏木の母〕にお知らせ申し上げるけれど、このごろは、具合が悪いと言って寄り臥していらっしゃった。あれこれ申し上げて紛らわす間、御前の木立どもが、思うことなどなさそうな様子をご覧になるのも、とてもしみじみと感じられる。

柏木と楓とが、ほかのものより特別に若々しい色をして、枝を交わし合っているのを、

「どんな前世の契りで、末に逢えた頼もしさだろう」

などとおっしゃって、ひそやかに近寄って、

できることなら、馴らした枝に〔あなたを〕馴らしたいものだ、葉守の神のお許しがあったのだからと。

御簾の外という隔てがある間こそ、恨めしいことです」

と言って、長押に寄りかかっていらっしゃった。

「〔宮の〕しなやかなお姿はまた、とてもひどく弱々しくなっていらっしゃるのを」

と、〔女房たちが〕あれこれ取り次いで世話をする。この〔宮の〕お相手を申し上げる少将の君という人を通して、

柏木に葉守の神が宿らなくても、〔この梢が〕人を馴らすはずの宿の梢でしょうか、いえそうではありません。

唐突なお言葉に、〔宮は〕浅くお思いになったようです」

と申し上げると、もっともだと〔夕霧が〕お思いになるので、少し微笑みなさった。

底本:北村季吟編『湖月抄』延宝元年[1673]刊・国立国会図書館蔵 本別3-1 第36冊。本文画像:所蔵機関の公開資料。延宝元年(1673)刊『湖月抄』の大字本文を、国立国会図書館デジタルコレクションの原画像(IIIF)と照合した独自編集本文です。通行字体・現行仮名へ写し、濁点・句読点を補い、反復符を展開しています。発音の読みと独自訳を添え、補った主語などは〔 〕で示します。