第41帖 幻 / 第10場面
賀茂祭と中将の君
あらすじ・人物・読み方
賀茂祭の日、源氏は手持ち無沙汰に祭の様子を思いやる。東面でうたた寝していた中将の君のそばの葵を取り上げて名を問うと、彼女は恥じらいながら名をほのめかす歌を詠む。源氏は葵に寄せて、世を捨ててもなお捨てきれない思いを返し、この一人だけは放しがたい様子を見せる。
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現代語で読む
祭の日、〔源氏は〕たいそう手持ち無沙汰で、「今日は物見だといって、人々は気持ちよさそうだろうな」と言って、神社の様子などを思いやられる。
「女房などは、どんなに物足りなく思っているだろう。里に忍んで出て見たいものだ」などとおっしゃる。
中将の君が東面でうたた寝しているのを、〔源氏は〕歩み寄ってご覧になると、〔彼女は〕たいそう小柄で趣のある様子で、起き上がった。頬は華やかで、匂うような顔を〔袖で〕隠して、少し膨らんだ髪のかかりなど、趣がある。紅の黄ばんだ気配の添った袴、萱草色の単衣、たいそう濃い鈍色に黒いのなどが、きちんとせず重なって、裳や唐衣も脱ぎ滑らせていたのを、あれこれ引きかけたりするそばに、葵を置いていたのを〔源氏は〕寄ってお取りになって、
「何というのだったか。この名を忘れてしまった」とおっしゃると、そうでこそ、寄る辺の水に水草が生えるようなものです、今日の挿頭よ、その名さえ〔あなたは〕お忘れになるのですね。と、恥じらって申し上げる。〔源氏は〕もっともだと、愛おしく思われて、
おおかたは思い捨てた世の中だけれど、葵はやはり摘んでおくべきだろうか。などと、〔中将の君〕一人だけはお放しにならない様子である。
底本:北村季吟編『湖月抄』延宝元年[1673]刊・国立国会図書館蔵 本別3-1 第41冊。本文画像:所蔵機関の公開資料。延宝元年(1673)刊『湖月抄』の大字本文を、国立国会図書館デジタルコレクションの原画像(IIIF)と照合した独自編集本文です。通行字体・現行仮名へ写し、濁点・句読点を補い、反復符を展開しています。発音の読みと独自訳を添え、補った主語などは〔 〕で示します。