第42帖 匂兵部卿 / 第9場面
梅の宴
あらすじ・人物・読み方
六条院の寝殿の南の廂で宴が開かれ、「求子」が舞われる。ほころびた梅の匂いに薫の香がもてはやされる中、大臣に促された薫は「神のます」と歌い出す。
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現代語で読む
寝殿の南の廂に、いつものように南向きに、中将・少将が着席し渡り、北向きに向かって、垣下の親王たち、上達部の御座がある。御土器などが始まって、物が面白くなってゆくところに、「求子」を舞って、通る袖どものうち返す羽風に、御前近くの梅の、たいそうひどくほころびこぼれた匂いが、さっとうち散り渡るのに、いつもの、中将〔薫〕の御薫りが、ますますもてはやされて、言い知れず優美である。かすかに覗く女房なども、「闇はあやなく、心もとないほどだけれど、香にこそ、まことに似たものはなかった」と、賞美し合っていた。
大臣〔夕霧〕も、たいそうめでたいと御覧になる。容貌や用意も、常より勝って、乱れない様子に収めたのを見て、「右の中将〔薫〕も声をお加えなされ。ひどく客人らしくなさるな」とおっしゃると、憎からぬほどに、「神のます」など〔と歌い出す〕。
底本:北村季吟編『湖月抄』延宝元年[1673]刊・国立国会図書館蔵 本別3-1 第42冊。本文画像:所蔵機関の公開資料。延宝元年(1673)刊『湖月抄』の大字本文を原画像とOCRで照合した独自編集本文です。通行字体・現行仮名へ写し、濁点・句読点を補い、反復符を展開しています。発音の読みと独自訳を添え、補った主語などは〔 〕で示します。