第43帖 紅梅 / 第9場面
紅梅を愛でる匂宮
あらすじ・人物・読み方
匂宮は古歌の断片を口ずさみながら紅梅の枝を手放さず眺め、その色と香を賞します。若君を今夜の宿直に引き留め、近くに臥す宮の香ばしさに若君はこの上なくうれしく思います。宮は花の主人の心を尋ねますが、大納言の期待とは別に染まった自らの思いから、返事をはっきりとは言いません。
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現代語で読む
「恨んでから〔逢うことに〕なればよかったのに」
と言って、〔宮は花を〕手放しもせずご覧になる。枝の様子、花房、色も香も世の常ではない〔素晴らしさだ〕。
「園に香る紅梅は、色に気を取られて、香は白い梅には劣るというようだが、とても見事に、〔白梅と〕取り並べても咲いていることだな」
と言って、〔宮が〕お心を留めていらっしゃる花なので、〔届けた〕甲斐があって、大切になさる。
「今夜は宿直のようだ。そのままこちらに〔いなさい〕」
と、〔宮が若君を〕引き留めなさったので、春宮にも参ることができず、花も恥ずかしく思うだろうほど香ばしくて、近くに臥していらっしゃるのを、〔若君の〕若い心には、比べようもなくうれしく親しく思い申し上げる。
「この花の持ち主は、どうして春宮にはお心が移らなかったのだろう」
「存じません。〔姫の〕心を知る人からこそ、聞いたのでした」
などと〔若君は〕語り申し上げる。「大納言のお心は、私のほうへ向くはずだ」と〔これまでの話と〕聞き合わせていらっしゃるが、思う心は別に染みついているので、この返事は、はっきりとはおっしゃらない。
底本:北村季吟編『湖月抄』延宝元年[1673]刊・国立国会図書館蔵 本別3-1 第43冊。本文画像:所蔵機関の公開資料。延宝元年(1673)刊『湖月抄』の大字本文を、国立国会図書館デジタルコレクションの原画像(IIIF)と照合した独自編集本文です。通行字体・現行仮名へ写し、濁点・句読点を補い、反復符を展開しています。発音の読みと独自訳を添え、補った主語などは〔 〕で示します。