第44帖 竹河 / 第13場面
今上の不興
あらすじ・人物・読み方
大君の参入が冷泉院に回ったことを今上が不快に思い、中将が尚侍のもとへ言上に参る。
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現代語で読む
内裏〔今上〕では、故大臣〔鬚黒〕が心に期しておられた様子が格別だったのに、このように引き違えた御宮仕えを、どういうことかとお思いになって、中将を召しておっしゃったのだった。
「〔帝の〕御機嫌がよくありません。だからこそ、世の人々の心の内も、〔院の方へ〕傾いてしまうだろうことだと、かねて申し上げた事を、〔尚侍が〕お受け取りになる方が違って、このようにお決めになってしまったので、どうにも申し上げにくくございましたのに、このような仰せ言がございますので、私めの身のためにも、つまらなくございます」
と、たいそう重々しく思って、〔中将は〕尚侍の君に申し上げなさる。
「さあ。ただ今、このように、急に思い立ったわけではありませんでした。〔院が〕熱心に、お気の毒なほどおっしゃったので、後見のない交じらいの内裏あたりは、みっともない様子でしょうから、今は気安い御様子である〔院〕に、お任せ申し上げようと、思い寄ったのです。どなたもどなたも、不都合だろう事は、ありのままにもお諌めにならないで、今になって翻し、右の大臣も、ひねくれたように、〔私を〕向かせておっしゃるので、苦しいのです。これもそうなるべき〔運命〕なのでしょう」
と、〔尚侍は〕穏やかにおっしゃって、心もお騒ぎにならない。
「その昔からの御宿世は、目に見えないものですから、このように〔院が〕お思いになっておっしゃるのを、これは縁が違うと、どうして奏し直すことができるでしょうか。中宮をお憚り申し上げなさると言って、院の女御を、どうおもてなし申し上げようというのですか。後見がどうとかと、かねてお考えを交わしても、そうもいかないでしょう。よろしい、見聞きいたしましょう。よく考えれば、内裏は、中宮がいらっしゃると言って、他の人は交じりなさらないでしょうか〔いえ交じります〕。君にお仕え申し上げることは、その気安さこそが、昔から趣のあることでした。女御は、少しの行き違いがあって、よくないとお思い申し上げなさるようなことになれば、ひねくれたように、世間の聞こえもございましょう」
などと、お二方で申し上げなさると、尚侍の君は、とても苦しいとお思いになって、そうはいっても、〔院の女御への〕限りない御愛情だけが、月日に添えて増してゆく。
底本:北村季吟編『湖月抄』延宝元年[1673]刊・国立国会図書館蔵 本別3-1 第44冊。本文画像:所蔵機関の公開資料。延宝元年(1673)刊『湖月抄』の大字本文を原画像とOCRで照合した独自編集本文です。通行字体・現行仮名へ写し、濁点・句読点を補い、反復符を展開しています。発音の読みと独自訳を添え、補った主語などは〔 〕で示します。